地域をつなぐ令和のまちやぐゎー《まつだ商店》
地域をつなぐ令和のまちやぐゎー《まつだ商店》
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歴史文化
放送日:2025.10.27 ~2025.10.31
初回投稿日:2025.11.06
最終更新日:2025.11.06
最終更新日:2025.11.06
目次

2020年地域に惜しまれながら閉店したスーパーまつだ
読谷村高志保の一角に、長年にわたって地域の人々に親しまれてきた「スーパーまつだ」がありました。店舗での販売だけでなく、地域企業への卸しや酒販売、ビールの配達、学校への納品なども行い、地域の暮らしを支える存在でした。
しかし、2020年。新型コロナウイルスの影響で状況は一変します。村内の居酒屋が相次いで休業し、大きな打撃を受けたスーパーまつだは、やむなく閉店を決断しました。
その後、困ったのは地域の高齢者たちです。高志保以北の読谷村半島にはコンビニエンスストアこそあるものの、大型スーパーはなく、車を持たない住民たちは日常の買い物の拠点を失い、“買い物難民”となってしまいました。

照屋雅文さん(左)と義父の比嘉徹さんは、買い物弱者と呼ばれる人たちを助けたいと行動を起こしました
困っている人たちのためにできること
そんな中、地元出身の照屋雅文さんと義父の比嘉徹さんは、この問題を深刻に受け止めました。
「祖父母が毎日のようにここで買い物をしていたんです。お店が閉まって困っている姿を見て、何とかしなければと思いました。さらに、地域のおじいちゃんおばあちゃん世代からも“買い物できる場所がなくて不便だ”という声が多くて…。義父と話し合い、ここを再建しようと決めました」
照屋さんの祖父母の家は、スーパーまつだから歩いて3分ほど。この店は祖父母の暮らしに欠かせない存在だったのです。

「昔から祖父母に育てられたので、高齢者への恩返しの気持ちもあります」と照屋さん
移動販売車で村を回ってご用聞きも
当時、照屋さんは介護職に就いていました。
「ちょうどその頃、読谷村が移動販売車を購入し、運営者を募集しているという話を聞いたんです」と振り返ります。
もともと過疎地の買い物弱者を支援する取り組みに関心があった照屋さんは、移動販売事業と「スーパーまつだ」の再建を同時に決意。介護の仕事を辞め、2021年8月に移動販売をスタートしました。
開業当初は自社の商品がなく、スーパーで仕入れた品をほぼ原価で販売。公民館前での営業に加え、「ご用聞きサービス」も実施しました。
草刈りや電球交換などの家事代行、販売車にない商品の買い物代行まで、住民の細かな要望にも柔軟に対応しました。
2023年「まつだ商店」をオープン

志を同じくするスタッフたちと、毎朝のミーティング
2023年、地域の仲間たちとともに「まつだ商店」をオープン。
「スーパーまつだ」への感謝を込め、あえてその名を引き継ぎました。
照屋さんが目指したのは“商店の原点回帰”。
整然と並んだ商品を黙って手に取るのではなく、「今日はお肉をこれだけちょうだい」、「この魚はどうやって食べるの?」といった会話を交わしながら買い物を楽しめる場所にしたいと考えました。
ヒト・モノ・コトと消費者をつなぐスタッフたち
「“買い物難民”って、単に近くにお店がない人だけじゃない。欲しい商品が遠くにしかなく、忙しくて買いに行けない人もそう。那覇や宜野湾まで行かなければ手に入らなかった商品を、読谷でも買えるようにしたかったんです。おばあちゃんたちが『こんな珍しい商品もあるんだね』と喜んでくれたら、買い物がもっと楽しくなる。日用品からオーガニック調味料まで、いろんな“ほしい”が見つかるお店にしたい」と照屋さんは語ります。
野菜は、地元農家の直売や委託契約と、市場からの仕入れを組み合わせ、できるだけ多くの種類を店頭に並べています。
「形や大きさが不揃いでももちろん大丈夫。『落として少し傷がついたから』という野菜にも、きちんと値段をつけて販売したい。そういう積み重ねが、まつだ商店のあり方だと思っています」と、ストアマネージャーの国吉拓己さん。
国吉さんも、生産者を訪ねて声を聞き、天候や収穫の状況、苦労や工夫をお客さんに丁寧に伝えています。

国吉拓己さん。「あの野菜おいしかったよー、あんな食べ方珍しいねとか、お客さんから反応をもらうと、とても嬉しいです」

「生産者の思いや苦労も含めて、きちんと消費者に届けたい」と国吉さん

池原隆一さんのコーヒー豆のカスカラを使ったチャイ
店内の一角で「パーラー多福」を営むのは、コーヒー農家の池原隆一さん。見た目が少しB級の野菜や果物を買い取り、酵素ドリンクやスイーツに加工して提供しています。
人気は、自身のコーヒー豆を焙煎するときに出る「カスカラ(果皮)」と県産スパイスを合わせたチャイ。香り豊かで体にやさしいと評判です。
「お客さんとの距離が近いのが心地いい。『地域密着型』というまつだ商店のコンセプトが自分にしっくりきたんです。10年後も20年後も、この商店が続いてほしいですね」と池原さん。
精肉コーナーを担当するのは「かつ政精肉店」。沖縄県産和牛や地元読谷産「ゆんた豚」やラム肉など、食卓に笑顔が広がるようにと、品質にこだわった肉を豊富に揃えています。
地元とのつながり
まつだ商店では、地域の釣り人から魚の買い取りも行っています。
「釣りが好きな人って、食べきれないほど釣ってくるじゃないですか。それを買い取らせてもらっているんです」と鮮魚職人の高江洲勲さん。
「子どもが釣った魚を“刺身にして”と持ってきたこともありました。お父さんが支払おうとしたけれど、『子どもが喜ぶならお金はいらないよ』とその場で捌いてあげたんです。それ以来、また魚を持ってきてくれるようになって。本当にありがたいですね。値段のやり取りもまた楽しいんですよ」と笑顔を見せます。

この日は脂ののった大きなタマンが持ち込まれました

「食べきれない魚を引き取ってくれるから、こちらも助かるし、子どもも喜びます!」と地元のお父さん
困っている人がいたら応えたい
まつだ商店では、ただ物を売るだけでなく、プラスアルファのサービスも大切にしています。重い荷物があれば無料で配達し、タクシーがつかまらないときにはスタッフが家まで送ることもあるそうです。
照屋さんは、今後、こうしたきめ細やかなサービスにもさらに力を入れていきたいと考えています。

重い荷物は無料で配達も行っています
「昔の商店って、そこに行けば情報が集まり、困りごとも誰かが助けてくれる。そんなコミュニティとしての役割が大きかったと思うんです。
『水道が壊れた』と相談されたら、『じゃあ○○さんに頼んでみて』とつないであげるような場所でした。
今のまつだ商店は、まだ地域に根を張る途中。いずれは福祉の面でも力を入れていきたい」と照屋さん。

高齢者がゆっくりとおしゃべりを楽しみながら精算できる「ゆっくりレジ」。もちろん現金対応です
まつだ商店を拠点に、福祉と食をつなげながら、本当の意味で地域の暮らしを支える商店を目指す照屋さん。
読谷村の小さな商店は、今、大きな夢を育てています。
まつだ商店
- 住所 /
- 沖縄県中頭郡読谷村高志保300
- 営業時間 /
- 10時〜19時
- TEL /
- 098-923-1531
- Webサイト /
- https://matsuda-shouten.jp/
沖縄CLIP編集部
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