アートで地域とつなぐ《那覇文化芸術劇場なはーと》
アートで地域とつなぐ《那覇文化芸術劇場なはーと》
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歴史文化
放送日:2025.10.13 ~2025.10.17
初回投稿日:2025.10.20
最終更新日:2025.10.20
最終更新日:2025.10.20
目次
2021年10月31日。首里城焼失からちょうど2年のこの日、那覇の久茂地小学校跡地に、新たな文化芸術の発信拠点施設が誕生しました。
「那覇文化芸術劇場なはーと」(以下、なはーと)です。
この10月31日の開館には、琉球文化芸術の象徴であった首里城の焼失を背景に、「なはーと」が文化芸術の新たな発信拠点として力強い一歩を踏み出すという強い思いが込められています。
2014年、学校統合により閉校した久茂地小学校
久茂地小学校の歴史と校歌が刻まれた碑
久茂地小学校の跡地 再利用に向けて
那覇市は、公共交通の利便性の高さや公共交通の利用促進、中心市街地の活性化なども考慮し、平成25年8月に新たな文化芸術の発信拠点施設の建設場所を久茂地小学校敷地として決定しました。
地域の人々にとって思い出が詰まった久茂地小学校の跡地の文化芸術の発信拠点施設の整備については、地域住民から多くの意見が寄せられました。
かつて子どもたちの学び舎だった場所を、地域にとってどんな存在にしていくのか。那覇市と市民は何度も対話を重ねながら、丁寧にプロジェクトを進めていきました。
この対話の積み重ねこそが、後に「市民とともに育つ劇場」という、なはーとの理念の土台となりました。
劇場の名称「那覇文化芸術劇場なはーと」は、市民公募によって約1000件の応募の中から選ばれたものです。
那覇(NAHA)・心(HEART)・芸術(ART)をキーワードに名づけられたこの名前には、文化芸術の発信拠点として、多くの人に親しまれてほしいという願いが込められています。
沖縄の伝統織物「首里織」をモチーフにしたコンクリートパネル
沖縄の伝統にこだわった建築
住居や商業施設が立ち並ぶ中心市街地の中で、なはーとは周囲の景観と調和しながらも、那覇の新たなランドマークとなることを目指して建てられました。
外壁には、沖縄の伝統織物「首里織」をモチーフにしたコンクリートパネルを採用。縦糸と横糸が織りなすような光と影のコントラストが、建物全体をやわらかく包み込んでいます。
さらに、沖縄の建築ではなじみ深い「花ブロック」を組み合わせてデザインされた大きな壁が印象的です。地域の文化的アイデンティティを建築に昇華させた、独創的で存在感のあるデザインとなっています。
敷地内の植栽には、沖縄の染色に使われる植物や沖縄在来の樹木を多く配置し、かつて久茂地小学校にあった寒緋桜も移植されました。
「いかに箱物に見せないか」という思いが細部にまで込められており、自然と文化、そして歴史をつなぐ仕掛けが、建物の随所に息づいています。ロビーは、憩いと交流の場
なはーとの大きな特徴は、その入りやすさにあります。
多くの劇場では、公演やイベントがない日には扉が閉ざされ、催しのある日でもチケットを持つ人だけが入る、そんな特別な場所という印象を持つ人も多いのではないでしょうか。
「芸術は敷居が高い」、「劇場は日常から離れた場所」そうした固定観念を、なはーとは穏やかに解きほぐしていきます。
お昼時にはランチや休息する人の姿も
日常の延長線上にアートがある、なはーとは、そんな場所を目指しています。
観劇の予定がなくても、ふらりと立ち寄ることができる。市民はいつでもロビーを訪れ、アートや空間そのものに触れることができます。
ここは、単なる待合スペースではなく、市民に開かれた憩いと交流の場です。
近隣で働く女性がお弁当を持って訪れ、おしゃべりと食事を楽しむ、快適な温度に保たれたロビーで、涼む高齢者の姿も見られます。
また、近隣の保育園のお散歩コースにもなっていて、子どもたちが劇場空間に触れる場にもなっています。
開放的なロビー空間。右の壁面をスクリーンに、「光のアルバム」を上映しています
近隣の保育園のお散歩コースになっています
光のアルバムで昔の沖縄の日常を感じる
ロビーでは、映像展示「光のアルバム」が常設されています。
1992年のオムニバス映画『パイナップル・ツアーズ』で知られる真喜屋力監督が手がけたこの作品は、県民が撮影した日常の風景の八ミリフィルムに、地域の音楽家による楽曲を組み合わせたものです。
春・夏・秋・冬、四季をテーマに構成された映像は、訪れるたびに異なる表情を見せてくれます。「これ、うちの近くだね」「あの頃、こんな風景だったね」、そんな会話が自然と生まれる、優しい時間が流れています。
この映像は、なはーとのYouTubeでも公開されており、劇場に足を運べない人も楽しむことができます。アートを一方的に鑑賞するだけでなく、記憶を共有し、対話を生み出すメディアとして、なはーとのロビーを彩っています。
「ニュースや報道では記録されない日常が、家庭の八ミリフィルムには残されています」と真喜屋監督
海と城をテーマにした、二つの劇場空間
2階の大劇場は、1,594席に車椅子席8席を加えた計1,602席。沖縄の珊瑚礁の海の中にある城(グスク)をイメージして設計されており、天井は、モザイク画で海底から見た海面のゆらめきを表し、客席は海面に近づくほど色が淡くなるグラデーションを表現、まるで海の中で芝居を観ているような幻想的な空間を生み出しています。
1階の小劇場は、通常259席に車椅子席2席を加えた261席。壁面と音響反射板を朱色で統一し、舞台から客席へ伸びた天井の形は首里城正殿と御庭(うなー)の構成をコンセプトにした、首里城をイメージしたデザインとなっています。客席は、琉球の高貴な色とされていた黄色とし、織物をモチーフに採用した生地で作られています。
大劇場が「海」、小劇場が「城」、沖縄の自然と歴史文化、その両方が、この二つの空間に見事に表現されています。
海の中の城(グスク)をイメージした大劇場
首里城をイメージした小劇場
去った10月4・5日に上演された「戦後80年特別企画 ゲキジョウ・タンジョウ~拝啓 八月十五夜の茶屋」のリハーサル風景
舞台ゲキジョウ・タンジョウは、舞台「お笑い米軍基地」主宰のまーちゃんが、脚本・演出を手がけ、名作がタンジョウ
グルっとまーいのPRのため、近隣の飲食店でYoutube用の動画を撮影する芸人さんたち
劇場を「巡る」体験をデザイン
なはーとには、あえて“正面入口”がありません。3か所の入口から自由に出入りできる設計を活かし、「劇場を巡る」という新しい体験を提案しています。
館内は「ウナー(御庭)」を中心に、「スージグヮー(細路)」のような通り抜け可能な通路が設けられ、訪れる人は建物の中を自由に回遊できます。
ロビーで《光のアルバム》を眺め、常設や企画展示を楽しみ、植栽を観察しながら別の出口へ。なはーとは、日常の中で“人が流れ込み、回遊し、通り抜ける劇場”としての新しいかたちを提示しています。
さらに、地域とのつながりを深める取り組みとして「なはーとグルっとまーい」という企画も実施しています。これは、「グルっとまーい(グルメ巡り)」を意味し、なはーとの主催や共催公演チケットを近隣の協力店舗に持参すると、割引などのサービスが受けられるという仕組みです。
観劇前の待ち合わせや終演後の余韻を楽しむ時間に、劇場とまち、そして人をゆるやかにつなぐ、「なはーとグルっとまーい」は、そんな笑顔の輪を広げる取り組みです。市民とともに育つ、文化の拠点「なはーと」
なはーとの軸は「市民が集う場所」であることです。小学校の跡地という立地を活かし、地域に開かれた文化施設として、日常と非日常の両方を大切にしながら運営されています。
劇場は完成した瞬間に出来上がるものではなく、市民とともに成長し、アートを通じて人と地域をつなぎ、育て合う。その理念のもと、なはーとは10年後、20年後も、建物という「ハコ」を越え、人と人、人と文化を結ぶ「場」として、那覇の街に根を張り続けていくことでしょう。
那覇文化芸術劇場なはーと
- 住所 /
- 沖縄県那覇市久茂地3-26-27
- TEL/FAX /
- TEL:098-861-7810
FAX:098-861-7870
- 開館時間 /
- 午前9時~午後10時(入館は午後9時45分まで)
- 休館日 /
- 毎月第1・3月曜日(祝日又は慰霊の日は開館、直後の祝日でない日休館)、年末年始(12月29日~1月3日)
- Webサイト /
- https://www.nahart.jp/
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