夫婦で生み出す石獅子《スタジオde-jin》
夫婦で生み出す石獅子《スタジオde-jin》
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歴史文化
放送日:2025.05.26 ~2025.05.30
初回投稿日:2025.06.04
最終更新日:2025.06.04
最終更新日:2025.06.04
ゆいレール首里駅からほど近い場所に、石獅子のアトリエ兼ショップ「スタジオde-jin」があります。
スタジオde-jinでは、村落獅子(シーサー)といわれる石製のシーサー・石獅子をお手本に、今の暮らしに合わせた手彫りの石獅子を制作し、販売しています。
モノレール首里駅から徒歩5分のスタジオde-jin
沖縄への思いを石づくりにのせて
お店を営むのは、沖縄県立芸術大学で、彫刻を学んだ若山大地さんと奥様の恵里さん。
石獅子を手がけるのは大地さんです。創作のきっかけを聞いてみました。
「母が大宜味村の出身で、私は沖縄で生まれ、愛知県で育ちました。沖縄には数年に一度、お盆の時期などに帰省していました。那覇空港に着くと、祖父が車で迎えに来てくれて、そのままやんばるへ向かうのが常でした。車窓から見る光の質や明暗のはっきりした風景、コンクリートの建物が今でも記憶に残っています。
中学2年生ぐらいになると、いつか沖縄で暮らしたい夢を持つようになり、沖縄県立芸術大学へ進学しました。卒業後は、大学で助手を務めたり、他業種で働いていたのですが、漠然と石に関わる仕事がしたいという思いがあり、友人に相談したところ、村落獅子の存在を教えてもらいました。
その歴史や存在意義などに衝撃を受けました。何より民間彫刻が暮らしに根付いていたことに感銘を受け、一生の仕事にしたいと思いました」

石を彫るのは大地さん
村落獅子に魅せられて

村落獅子を調査するのは恵里さん
村落獅子の存在を知ってからというもの、「村落獅子とはなんなのか?」を確かめるために、ご夫婦はさまざまな集落を訪ね歩いたといいます。
「毎週のように、各地の村落獅子に会いに出かけました。すると、どうしてこんな方向なのかな?この集落にはこんなにたくさんあるのに、こっちの集落にはなぜ少ないのかな?など、疑問が次々に湧いてきました。村の人に声をかけて話を聞くうちに、もっと詳しく知っている人がいるよと、高齢の方々を次々に紹介していただき、いつの間にか本格的な調査になっていました」
村落獅子をヒントに、沖縄の石、琉球石灰岩を使ったオリジナルの石獅子づくりが始まりました。石獅子を通して、お二人は沖縄の風習や文化を深く学ぶようになっていきます。
村落獅子が語ること
調査を始めるうちに、村落獅子は、首里や那覇など位が高い人が暮らす地区ではあまり見られず、庶民が多く暮らす地域に分布し、南部は糸満、北部は宜野座あたりを北限としていることがわかりました。
役割は集落によって異なること、例えば、隣村との関係が険悪であれば、その方角に向けて設置されたり、乳児の死亡率が高い村では、赤子を守るための守護的な存在とされたり、火災が多い地域では、風水師の助言を受けて特定の方向に向けて置かれたりと、理由や信仰のあり方は多様でした。
ちょうどそのころ、機内誌でスタジオde-jinの石獅子が紹介され、媒体をきっかけに、琉球新報の副読紙『週刊かふう』で恵里さんが執筆する『歩いて見つけた 石獅子探訪記』という、沖縄各地の村落獅子をテーマにした連載がスタートしました。
一年間の予定が評判を呼び、なんと7年間も続く長寿企画に。その後、書籍として出版されました。
沖縄の文化を継承する道標
「獅子文化って、実は世界中にあるんです。ルーツをたどれば、エジプトのスフィンクスなどの古代オリエント文化が原流で、シーサーという言葉も、元はシシ(獅子)から来ているようです。
ライオンが実際にいる地域で獅子像が生まれるのは自然な流れですが、シルクロードなどを通じて、各地域の宗教などと融合していったと考えられています。
そして、沖縄でこれほどまでに獅子が暮らしに根づいているのは、村落獅子の存在が大きいと思うんです。
王府の権威の象徴であった獅子を、庶民のために、庶民の手によって作られたことで獅子は民衆のものになり、暮らしの中に取り込まれていきました。
同じ獅子でも、本土の狛犬を家に置こうとはなかなか思いませんが、沖縄ではシーサーはとても身近な存在ですよね。
今では、お土産として気軽に買えるし、家の門に飾るのも特別なことじゃない。暮らしとの距離がとても近いんです」と大地さん。
石獅子を作る道具。彫刻道具の歴史は実は明らかにされていないのだとか
石獅子を作った端材を使った石敢當。恵里さんのアイデアでいろいろな商品化をしている
ご夫婦が最初に足を運んだ、那覇市上間の「カンクウカンクウ」。すべてはここから始まったそうです
恵里さんが一番好きだという、南城市大里字平良の「平良の石獅子」。「これが村落獅子のシンプルな最上級みたいな気がする。絵本に書いたオバケみたいでしょ」

琉球石灰岩の中でも大地さんが主に使っているのは、勝連トラバーチンと粟石。こちらは粟石。石灰岩は珊瑚がベースで、海の貝や生き物の死骸が堆積してできる、自然の恵み

スタジオde-jinが生み出す石獅子とは?
「ある時、出会った朽ちかけた村落獅子は、誰にも気づかれずにぽつんと立っていました。苔むして、風化して、今にも崩れそうだったけど、大きな存在感があった。誰も世話してないけれど、ちゃんとそこにいる、まるで村の古老のように。
その姿に衝撃を受けました。民間彫刻ってこういう存在なのかと。ピカピカに磨かれて、観光客に写真を撮られるような獅子じゃなくて、風雨にさらされながらも、村を見続けてきた存在。
僕がやりたいのは、そういう時間を内包した造形を作ることなんだと、あの時、確信しました」
そう語る大地さんに、恵里さんも続けます。
「石ひとつで、沖縄の歴史や文化、人々の暮らしまで語ることができるのが石獅子。そんな石獅子を通じて語られる沖縄の物語を、お土産や記憶として持ち帰ってもらえたら嬉しいです」
石獅子は、庶民一人ひとりを守ってくれる存在。
沖縄の石獅子文化は、スタジオde-jinによって、今なお柔軟にかたちを変えながら生き続けているのです。
スタジオde-jin
- 住所 /
- 沖縄県那覇市 首里汀良町1-2 1F
- TEL /
- 098-887-7466
- 営業時間 /
- 10時〜18時
- 定休日 /
- 日曜日
沖縄CLIP編集部
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