食を通して優しい未来を考える《宜野座愛美》
食を通して優しい未来を考える《宜野座愛美》
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歴史文化
放送日:2025.12.08 ~2025.12.12
初回投稿日:2025.12.15
最終更新日:2025.12.15
最終更新日:2025.12.15
目次
沖縄本島北部の金武町は、基地の街として知られつつも、緑豊かで清らかな湧き水に恵まれ、文化的史跡も多く、毎年渡り鳥が数多く訪れる地域です。
この地で田んぼと畑に日々向き合いながら、地域ガイドとして金武の魅力を伝える活動をしている宜野座愛美さんが暮らしています。

仲間たちと田んぼで収穫する宜野座愛美さん。娘の璃紅(りく)ちゃんもお手伝い
体を作るのは、食。その重要性を再認識
那覇出身の宜野座さんが金武町に移り住んだのは、結婚がきっかけでした。夫以外に知人のいない土地での暮らしに不安はありましたが、当初から畑を借りられたことが地域とつながる扉となりました。
彼女が本格的に「食」と向き合うようになるには転機がありました。妊娠3か月目での自然流産。1年間は何も手につかないほどの喪失感に沈んだといいます。そんな中、友人の暮らす名護・大浦湾を訪れ、地域の人たちが食を軸に暮らしを組み立てている姿に触れました。
流産の背景には、自己免疫疾患が影響していました。安全な食を意識し始めて以来、体質を整えたいという思いが強まり、食生活を徹底的に見直すことにしました。
「外食を控え、自然に近い食材を選ぶ暮らしへと移行すると、体調も気分も安定していきました。食べることと生き方はつながっている、そう実感できたんです」と宜野座さん。

2025年、二度目の収穫です。「自分たちで育てたお米の味は格別」と宜野座さん
農作業が導いた、地域との関わり
稲作が盛んだった金武町で、2025年に本格的に田んぼを始めました。
現在管理するお米の作付け面積は0.6反。沖縄では二期作が基本で、田植えから草取り、代かき、収穫、脱穀まで、季節ごとの作業のリズムを楽しんでいます。
「曽祖母がフィリピンの米農家だったので、幼い頃からお米を生み出す営みがおいしさとして体に刻まれていたのかもしれません」と、宜野座さん。
一方で、幼少期にはフィリピンのスラムで暮らし、食が十分でない日々を経験しました。炊き出しに頼ることもあり、「食べ物があるかどうかで、その日の安心が決まる」と感じたと宜野座さん。
さらに、金武町の伝統行事である綱引きを、自分たちが育てた稲藁で再現したいという願いも、稲作への情熱につながっています。

収穫した稲はこれから脱穀までの二週間ほど乾燥させます
食べ物を生み出す喜び
自宅のあたいぐゎでは、沖縄野菜に加えて在来の根菜クジキン(クズウコン)も育てています。クジキンはかつて沖縄でクズ粉として使われていた作物ですが、金武町内ではすでに栽培が途絶えていました。
6年前、南城市の高齢女性が守り続けていた3株を譲り受けたことをきっかけに、宜野座さんは栽培を開始します。年1回しか収穫できないため増殖には時間がかかりますが、毎年少しずつ株を増やしながら、安定した育成に向けて研究しています。
「畑で作業していると、地域の人が自然と話しかけてくれる。どんな野菜が昔から育っていたのか、その会話から金武の暮らしが見えてくる気がするんです」
失われかけた在来作物を地域で再び育て、次世代へつなぐこと。それが宜野座さんの目標です。

収穫後の田んぼの生物を狙う白鷺も風景の一部

宜野座さんがたった一人で開墾したバナナ畑

仲間と共に始める養蜂のための土地を開墾中
地域ガイドとして、金武町の歴史と暮らしを伝える
「当初は金武のことを何も知らず、隣の畑の方ともどう関わればいいかわからなかったです。ただ、娘の地元にもなる土地だから、私自身が学ばなければ、と思いました」
農作業を続ける中で、「ただ暮らしているだけでは、この土地の本当の姿は見えてこない」と感じるようになった宜野座さん。やがて「金武町をもっと深く知りたい」と、史跡やガマ、古い拝所、戦前から続く田芋の水田、城跡、そして集落の小道までを案内する地域ガイドの資格を取得しました。
「外から来た私だからこそ、見える価値がある。それを伝えていきたい」
地域ガイド養成カリキュラムでは講座も担当しました。金武町のトートーメー(仏壇)のある家の暮らしをテーマに、自宅を公開して、発酵や季節の料理、米ぬかの活用、金武町の昔ながらのおやつ作りなど、日々の暮らしに根ざした講座は「生まれも育ちも金武町だけど、全然気が付かなかった、教えてくれてありがとう」と、地域の人にも好評でした。
誰かに伝えることで、自分自身にも気づきや学びがたくさんあったと宜野座さんは振り返ります。

沖縄野菜が育ち、ニワトリのチャチャがのびのび遊ぶ庭

「トートーメーを守らせてもらえることに喜びと幸せを感じます」

沖縄のクズ粉、クジキンを使った調理実習も行いました
娘のために、金武町の文化を未来へつなげたい
活動の中心には、一人娘の存在があります。
「娘には、行事や食文化が自然と身につく環境で育ってほしい。そして、基地のある町で生きるという現実も理解し、社会の課題を人任せにしない人になってほしい。田んぼや畑で土に触れ、作物を育てる日々の中で、その感覚を娘にも手渡していきたいですね」
食を通して人がつながり、土地の文化が未来へ受け継がれていく。
その営みを、宜野座愛美さんは今日も丁寧に積み重ねています。

昔は地域の人たちの生活用水だった金武の大川

お野菜たっぷりのスムージーを窓辺でゆっくり飲む璃紅ちゃん。彼女のお気に入りの時間です
宜野座愛美
https://www.instagram.com/eden_garden_okinawa/ (農業について)
https://www.instagram.com/ginozey/ (地域について)
沖縄CLIP編集部
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