祖母の想いを花笠にのせて《黄金花笠》
祖母の想いを花笠にのせて《黄金花笠》
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歴史文化
放送日:2025.06.30 ~2025.07.04
初回投稿日:2025.07.09
最終更新日:2025.07.09
最終更新日:2025.07.09
那覇市繁多川にある世界遺産「識名園」からほど近い場所に「黄金花笠」という花笠工房があります。
花笠とは、もともと沖縄の伝統芸能である琉球舞踊や沖縄芝居で使用される小道具で、赤い花と青い空、青い海が沖縄を象徴しています。
戦後は、花笠を着けた琉球人形が土産品として人気を博し、1975年に開催された沖縄国際海洋博覧会ごろを境に、カラフルな花笠が国際通りを彩るようになりました。
祖母から受け継いだ技術
現在、黄金花笠を営むのは花笠職人だった木村ツルさんの後を継ぐ、孫の尾崎由香さんです。
ツルさんが花笠を作り始めたのは、結婚を機に宮古島から那覇市真地に移住した50年前のこと。
「当時、祖父は女性は家にいるものと考えていたようで、祖母は外へ働きに出ることができませんでした。ちょうど50年前は海洋博の時期で、琉球人形が非常に売れました。そのため、花笠作りを内職としていた女性が多かったと聞いています。
祖母も最初は人形用の小さい花笠から始めて、やがて、もっと大きな花笠も作ってみたいと、他の職人から技術を学びました」と由香さん。
識名園から徒歩3分ほどの黄金花笠
由香さんのご家族とツルさん
花笠業界の後継者不足
由香さんが花笠作りを本格的に始めたのは、2019年に一人目の息子が生まれたタイミングでした。育児に専念したい思いがあって仕事を辞め、時間ができたので、毎日ツルさんの家に通い、花笠作りを手伝うようになりました。
「花笠を作る人が、その時点で祖母を含めて3人しかいないという話は聞いていました。さらにコロナ禍ということもあり、いつの間にか国際通りから花笠が消えていることに気づいたんです。
79歳まで現役で花笠を作っていた祖母は、最後まで花笠の行く末を案じていました。葬儀の時に、改めて花笠を途絶えさせたくないと思い、受け継ぐことにしました」と、由香さんは振り返ります。
「祖母はいつもここに座って花笠を作っていました」
枠作りの道具を求めて
花笠を作り続けたい、由香さんがそう決意した時、最大の問題が立ちはだかりました。花笠の枠作りです。
ツルさんは枠に生地を張る専門だったので、枠は随時購入していましたが、由香さんが黄金花笠を引き継ぐと決心した時点では、90歳代の枠作り職人の家が台風で倒壊し、その男性が行方不明になっていたのです。
由香さんは、なんとか職人を見つけ出し、倒壊した自宅に枠作りの道具が埋まっていることを聞き出します。
職人の許可を得て、倒壊家屋から枠作りの道具を探し出せたのは、職人を探し始めてから約半年後のことでした。
「途中で何度もやめようと思いましたが、祖母が作っていた花笠を私も作り続けたい、その思いで頑張れました」と由香さん。
花笠の枠はアルミを加工して作ります
半年かけて探し出した枠を加工する道具
高騰する原料の確保も課題
生地の調達も大きな問題でした。花笠で使う赤い生地は、紅型の打掛にも使われるもので、県外にあった生地の生産工場が2022年に全焼し、入手が困難になりました。現在はツルさんのストックを使いながら、市場に流通している生地を集めている状態です。
さまざまな物価が高騰している現在、小ロットでもの作りをする人たちにとっては、原料の確保は大きな課題となっています。
職人の地位を向上させるために
内職からスタートしたツルさんの花笠作りは、材料を受け取り、生地を張る工賃だけが支払われる、または花笠を一ついくらで土産品店に卸す、そんな仕組みでした。
制作には何日もかかりますが、それに見合わない金額で職人たちは仕事を続けてきました。これでは暮らしを支える収入にはなりません。
「続けていけなければ意味がない」そう考えた由香さんは、現在は受注生産に絞っています。
さらに花笠体験や工房見学も積極的に受け入れており、その後で注文する人も多いそうです。
「こういう人が作っているなら注文したい。そう思ってもらえるよう、花笠作家としての私を知ってもらうことも大事だと思います。花笠作りで生計が成り立てば、これから始めてみようという人も現れるかもしれませんしね」
由香さんはそう話します。
近所の繁多川公民館で花笠作りのワークショップ
「宮古島のチョンダラー」として活動するホリケンさんが、小道具で使っている花笠について知りたいと、黄金花笠を訪ねてくれました。https://www.instagram.com/horihei_kinjo0528/
「いつも祖母のことを思って花笠を作っていますし、祖母も応援してくれていると思います」
NBAのチーム、レイカーズをイメージした創作花笠
黒い花笠は、赤い素材とは違う生地なので、張る工程で苦労しましたが、とても評判がいいそうです
花笠の普及活動としてSNSに力を入れている由香さん
「インスタを国際通りだと位置付けて、花笠だけでなく沖縄文化を発信しています」
沖縄文化を未来へつないでいくために
国際通りから花笠が消えても、需要がなくなったわけではありません。
作る人がいなくなった今、由香さんのところには修繕依頼や琉球舞踊で使う花笠を作ってほしいという問い合わせもあります。
しかし、これまで業界で慣例となっている価格では、すべてを引き受けることは難しい、由香さんはそう話します。
由香さんは現在、花笠の普及活動に取り組んでいます。同時に遊び心のある創作花笠も提案し、花笠というブランド力の向上に努めています。
「花笠ってなんだ?というところから皆さんに知ってもらいたいんです。琉球舞踊を見るきっかけになったり、買いたいと思ってもらえるつながりを作りたい。そもそも買えることを知らない人も多いと思います。世界の裏側の人にも届くSNSを活用して、花笠を通した沖縄文化を発信し続けていこうと思います」
由香さんは熱い思いを話してくれました。
黄金花笠
- 住所 /
- 沖縄県那覇市真地426−124
- TEL /
- 090-6299-4317
- 営業時間 /
- 9時〜17時
- 定休日 /
- 土・日・祝日
沖縄CLIP編集部
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放送日:2025.06.30 ~ 2025.07.04
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