子どもの視点で見る アート×まちづくり《久場麗美》
子どもの視点で見る アート×まちづくり《久場麗美》
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歴史文化
放送日:2026.02.16 ~2026.02.20
初回投稿日:2026.02.26
最終更新日:2026.02.26
最終更新日:2026.02.26
国道330号線沿い、沖縄市住吉の住宅街に、子どものための絵画教室「アートスタジオMARU(マル)」があります。主宰するのは、沖縄県立芸術大学デザイン専攻出身の久場麗美さんです。
この絵画教室では、絵を描くことだけが目的ではありません。子どもたちは教室を飛び出して近所を歩き、葉っぱを探し、風に触れ、自然を観察します。集めた植物を机の上に広げ、形や色、手触りを確かめながら、それぞれの表現へとつなげていきます。
「絵を描くことは、感じて観察し、考えて試すことの延長線上にある行為。描く時間が、子どもたちの想像力と感性を育てるきっかけになったらうれしい」と久場さんは話します。

目について興味を持った植物の手触りや匂いを肌で感じます

葉っぱはどうやって栄養を摂っているのかな?どんなデザインになっているのかな?

久場さんが絵画教室で心掛けているのは「子どもの邪魔をしないこと」

「描くことは考えること、自分の目で見て解釈したものを表現するのは生きていく上での訓練にもなると思います」と久場さん
出来事の解釈と価値を変える
宜野湾市で生まれ育った久場さん。複雑な家庭環境の中、幼いころから「現実から逃げたい気持ち」と、「逃げられない現実とどう向き合うか」を自問し続けていました。
自分の感情を処理するのではなく、観察していたと話す久場さん。
「なぜ自分は辛いのか」「この感情は本当に自分のものなのか」「別の場所にいれば、違う心の状態になるのではないか」
中学生のころにはすでに、「変えられない現実の中で、意味づけを変えれば生き方も変えられる」と考え始めていたといいます。
それは単なる自己防衛ではなく、物事をどう受け取り、どう意味づけし、どう価値を見出すか。出来事の解釈そのものを変え、再構築する試みでした。
祖父の存在と記憶の居場所

子どもの頃、安心できる居場所だったという祖父の自宅で。久場麗美さん

祖父のスクラップブックは久場さんの宝物です
幼い頃、心の支えとなっていたのは祖父でした。沖縄市出身の祖父は102歳まで生き、麗美さんにとって癒しであり、励ましをくれる存在でした。
祖父が残したスクラップブックには、祖父のルーツや歩み、好奇心が詰まっていて今も大切な思い出の品です。祖父母と過ごした時間、そしてその場所は、久場さんの幼少期を支えた大切な記憶の拠点です。

絵を描くことは、祖父に守られているような安心できる時間と久場さん

子どもの頃の思い出がたくさん詰まったリビングに飾られています
感性が磨かれた時間
高校卒業後は沖縄県立芸術大学へ進学し、デザインを専攻。プロダクトやグラフィックなどを横断的に学びながら、4年次からは「空間表現」へと絞っていきます。空間といっても建築というよりはインスタレーションに近い作品を制作し、文章と組み合わせた表現を探求。アートと建築の間にある領域を、自身のテーマとして深めていきました。
また、そのころ「動物行動学」と出合います。水の存在、隠れられる場所、背後の安全、見通しの良さ、そうした条件が揃ったとき、人は安心する。感情はロジックで説明できる、という発見でした。
「感情は内面だけで生まれるものではなく、環境によってもつくられる」
この気づきは「環境を整えることで感情も整う」という思想へと育ち、アートや空間表現への関心をより確かなものにしていきました。

自然と人間の共存をテーマとし、動物行動学に基づいた空間をデザインしました
アートは、そのままの世界を垣間見せる行為
「人は何かを理解するとき、まっさらな状態で世界を見ているわけではなく、すでに頭の中にある知識、経験、価値観、記憶に当てはめながら認識しています。つまり、“理解している”と思っていることも、実はすでに知っている範囲の中での認知にすぎないのだと思います。
それでも人は、物事に名前をつけることで世界を掴もうとする。けれど、本当はラベリングの前に世界はあり、言葉にする以前に“存在そのもの”があるのだと思うのです。
例えば“葉”と呼んだ瞬間、それは概念としての葉になります。しかし実際には、光の当たり方や湿度、匂い、風の揺れ、音、時間までも含んだ“そのもの”がそこにある。言葉は、それらをひとつの視点に圧縮してしまいます。
まだ意味づけや分類、ジャッジ、常識、固定概念が強くインストールされていない子どもたちは、これは何か? と捉えるよりも、どう感じるか、で世界に触れて、認知の前にある感覚により近い場所にいるのだと思います。
一方でアートは、説明する前の世界、ラベル以前の感覚、未分化のエネルギーを扱うことができるものです。
そのような理由から、アートと子どもはとても相性がよく、世界の認知を広げるポテンシャルを感じています。
アートは、そのままの世界を言語に変換しないまま存在させることができます。だからこそ、ときにそれを見る人を“認知の前にある感覚の世界”へと引き戻すことができるのです。そこで初めて人は、認知の世界を超えることができる。それがアートの面白さであり、役目なのかもしれない」と麗美さんは話してくれました。

小学五年生から5年間通った絵画教室の先生が教えてくれたのは、対象物の背景を見なさいということ。その教えのおかげで、久場さんのものを見る力が養われたといいます

見えていることがすべてではない、見るとは何か? 絵を描く時に久場さんはいつもその本質を考えます

久場さんの作品。祖父が101歳の頃。祖父の畑で取れた植物で葉冠を作り、白澤(人の言葉を解し万物に精通する知恵を持つ神獣)に見立てました
まちづくりの現場
大学卒業後は建築デザイナーとして店舗デザイン会社に就職し、約1年半、現場で実践を学びます。その後、総合コンサルタント会社へ転職し、都市計画・まちづくりコンサルタントとして約5年間勤務。基地跡地の活用や新道路計画、離島の観光促進、公園や住宅地の都市計画など、行政発注の長期プロジェクトに携わりました。
その間、御嶽や湧水、自然崇拝、土地の記憶など、沖縄独自の文化的価値を尊重するまちづくりに、久場さんは強く惹かれていきます。
「壊さずに生かす」。久場さんがデザインや建築において大切にしたい感覚です。土地の地形や素材、記憶を尊重し、無理に均したり取り払ったりせず、「その土地に住まわせてもらう」という姿勢で空間をつくること。
再生とは壊すことではなく、「先人たちの声を読み取り直すこと」だと考えます。
しかし現場では、「まちづくり」が「壊すこと」に見える瞬間が増えていきます。祈りの場が移され、森が削られ、計画が政治的判断で変えられていく現実。やがて久場さんはある考えに行き着きます。
「街をつくっているのは、誰かの価値観なのでは?」
では未来のために本当に必要なのは、価値観そのものを育てることではないか。その問いが、現在の子どもたちとの活動へとつながっていきました。

こんこんと湧く湧水はかつての集落にとって宝の泉
久場さんにとってアートとは?
「子どもの価値観を育てることが、まちづくりになる」
その感覚にたどり着いた久場さんは、会社員として働きながら土日に子ども向けアート活動を始めました。那覇のアトリエで6年間、子ども向け絵画教室の講師を務めてきた経験もその土台にありました。
その内容は、自然に触れて観察し、実験し、表現する。インプットとアウトプットを循環させる体験型の学びです。
子どもたちに「教える」のではなく、「邪魔をしない」「奪わない」「奪われない感性を守る」久場さんが大切にしていることです。
現在は絵画教室を拠点に、保育園や子ども園での表現指導、アートワークショップ、デザイン・空間設計、都市計画や地域プロジェクトまで、幅広く携わっています。
意味を持つ場所をどう残すか、壊さずに生かすとは何か。アートとまちづくりは、意識と環境、内面と空間の関係だと久場さんはいいます。それらは分断されたものではなく、一本の線でつながり影響し合いながら循環している。
久場さんにとってアートとは、意識と環境の関係を問い続けることなのかもしれません。
沖縄CLIP編集部
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