平敷屋の文化を楽しむ、泊まれる喫茶店 《アガリメージョー》

平敷屋の文化を楽しむ、泊まれる喫茶店 《アガリメージョー》

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歴史文化

放送日:2025.05.05 ~2025.05.09

初回投稿日:2025.05.13
 最終更新日:2025.05.13

最終更新日:2025.05.13

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自分の実家を泊まれる喫茶店に

うるま市勝連平敷屋(かつれんへしきや)の集落内にある「アガリメージョー」は、ちょっとめずらしい“泊まれる喫茶店”。店主の眞榮里良人(まえざとよしひと)さんが、自身の実家をリノベーションし、宿&喫茶店として2019年にオープンしました。

高校を卒業後15年間、県外に暮らしていた眞榮里さん。2014年、お父様の病気を機に帰郷、お父様が逝去されてからは長男として実家を継ぐことになりました。けれど、ここで“暮らす”というイメージが持てず、せっかくなら自分が楽しいと思えることをしたい、何かの形でみんなが集える場所にしたい、と考えるように。

そこで思いついたのが、週末限定でオープンする宿でした。


畳と木のぬくもりが落ち着く喫茶スペース

畳と木のぬくもりが落ち着く喫茶スペース

 

「週末だけなら、ほかに会社勤めをしながらでも運営できると思ったんです。でも、どこかで“それって本当に楽しいのかな?”と自問していました。それでいろいろ考えていたときに、飲食業や観光業の経験があったので、それを活かせば宿と喫茶店ができるかもしれない、と思いついて。料理も観光案内もできるし、三線を弾くのも好きだし、自分の特技を掛け合わせたら、自分も楽しい、そして皆さんにも楽しんで頂けるのでは、と。そうやって2017年頃から構想を練り始め、リノベーションを進めていきました」

笑顔もゆんたくも素敵な店主の眞榮里良人さん
笑顔もゆんたくも素敵な店主の眞榮里良人さん

 

喫茶店は16時まで営業、宿はその後の時間帯にチェックインできる仕組み。古民家一棟まるごと借りることができ、1組5名まで泊まることができます。コンセプトは「地域の文化を楽しむ」。喫茶スペースとなっている広間には仏壇もトートーメーもそのまま置いてあり、眞榮里さんいわく「自分の実家に皆さんが遊びに来て頂くようなイメージ」。


喫茶スペースに置いてある眞榮里家の仏壇喫茶スペースに置いてある眞榮里家の仏壇

 

「親戚の叔父さん、叔母さんたちは、最初は自分たちの実家が喫茶店と宿になることに驚いていたけど、今は一緒に楽しんでくれているし、取り組みを褒めてくれています。旧盆や地域行事のときも喫茶営業をしているので、お客様がいらっしゃるときに、親戚がお線香をあげに来るという場面も。

お客様は、こういう沖縄の文化が見られて嬉しいと言って一緒にお線香をあげてくださったり、以前、海外から観光客の方がいらっしゃったときは、叔母さんがカチャーシーを教えてみんなで踊ったり。そうやって人が集まって楽しそうにしている場面を観られると、お店をやって良かったなと嬉しくなります」

「本気の麦茶」と看板メニューの小麦珈琲

地域の生産者さんを応援したい、そしてお客様に地域の文化に触れて頂きたい。そんな思いから、喫茶店のメニューにはうるま市の食材を使用しています。ナポリタン、ハヤシライスに使用しているのは、うるま市のブランド豚「うるまの海ぶた」。戦後、ハワイからうるま市に豚550頭を運んだ先人たちのゆいまーる精神を受け継ぎ開発された豚です。

 

うるま市の特産品である黄金芋(おうごんいも)を使用したきんつばとチーズケーキなど、スイーツでも地産食材をたっぷり味わうことができます。

2種盛りもできるお料理メニュー

お料理メニューは2種盛りもできるのが嬉しい

 

オープン当初から力を注いでいるメニューが「本気の麦茶」。お客様が自分で小麦を焙煎してミルで挽いて抽出、最後に麦茶を飲んでいただくという体験メニューです。

使用するのは、うるま市伊計島で農薬・化学肥料不使用で栽培された自然の恵みがいっぱいの小麦。そもそもの始まりは、前職の島おこしの仕事で伊計自治会長・玉城正則(たまきまさのり)さんに出会ったこと。

かつて小麦栽培が盛んだった伊計島で、もう一度、特産品として小麦を復活させたい――。出会った当時の玉城さんは、50年ぶりに小麦栽培を復活させるべく、ひとり奮闘されていたそうです。

「本気の麦茶」はフライパンで小麦を煎るところから

「本気の麦茶」はフライパンで小麦を煎るところからスタート

 

「伊計島には、麦穂を奉納するウマチーがありますが、そういった伝統文化をただ残すだけでなく、ご自身の手で育てた小麦をお供えする、そしてそれを特産品開発につなげていくという“文化を残しながら島おこしをする”玉城さんの姿勢、情熱にものすごく感銘を受けました。

いつも背中を追いかけている、僕にとって師匠のような存在です。喫茶店を始めるにあたり、そうした玉城さんの活動を応援したいと思い、始めたのが『本気の麦茶』。一緒に体験しながら、伊計島の小麦のこと、玉城さんのこと、このメニューの背景にあるストーリーをお客様にお伝えしています」

その「本気の麦茶」をきっかけに誕生したのが、看板メニューの小麦珈琲です。

「お客様が麦茶の焙煎中、小麦を少し焦がしてしまったことがあったんですが、後からそれを濾して飲んでみたら、珈琲に近い味がして、おいしかったんです。そこから小麦珈琲が生まれ、オープンから約1年後にドリンクメニューとして提供するようになりました」

小麦の香ばしさとさっぱりした苦さが魅力の小麦珈琲
小麦の香ばしさとさっぱりした苦さが魅力の小麦珈琲

 

小麦珈琲に使用する小麦も、もちろん伊計島産です。体験メニュー「本気の麦茶」については、2020年より島おこし支援として売り上げの半分を伊計自治会に寄付しているのだそう。「本気の麦茶」という名称は、“本気で続けていく取り組み”という意味。眞榮里さんと玉城さんの「本気」のつながりを物語る活動です。

人と人が集うからできる本気の島おこし

伊計島の小麦の収穫や麦踏みが行われる際には、できるだけ毎回参加しているという眞榮里さん。今春も、たっぷり実った麦穂の収穫体験に、ご家族と一緒に訪れました。

麦刈りに参加する眞榮里さんとご家族

麦刈りに参加する眞榮里さんとご家族

 

黄金に輝く麦畑の道沿いには、太陽を浴びて元気に咲き誇る、たくさんのひまわりの花。島外の人たちが「この景色を見たい」と訪れてくれるような景観を目指して、伊計自治会が中心となり、島の住民の方々と取り組んでいる「フラワーロード」です。

ひまわりと麦が風に揺れる素晴らしい景色

ひまわりと麦が風に揺れる素晴らしい景色

 

収穫現場は、伊計自治会が管理する約2300平方メートルの麦畑。何度も参加しているという眞榮里さんご家族は、慣れた手つきで次々と麦を刈っていきます。

黄金色に輝く伊計島の麦畑

黄金色に輝く伊計島の麦畑

 

この日、体験に集まったのは約30人。夢中で麦刈りをしている皆さんの様子を見て、伊計自治会長の玉城正則さんはとっても嬉しそう。


麦畑を復活させた伊計自治会長の玉城正則さん
麦畑を復活させた伊計自治会長の玉城正則さん

 

「島おこしというのは、モノありきではない。大切なのは文化であり人だと思うんです。眞榮里さんは小麦栽培の資金と人材が足りないというときに、小麦珈琲の開発や、麦茶の体験メニューで応援してくれて活性化してくれました。いつも伊計島のことを応援してくれて感謝しています」

収穫後にゆんたくする伊計自治会長の玉城正則さんと眞榮里さん

収穫後にゆんたくする伊計自治会長の玉城正則さんと眞榮里さん

 

2018年に復活した伊計島の小麦栽培。まだ何もなかった畑のこと、玉城さんがビジョンを語るところから知っているという眞榮里さんは、改めて「有言実行するその姿勢が本当に素晴らしいです。玉城さんの本気度は尊敬しかありません」と、しみじみ。

収穫体験終了後には、参加した皆さんに眞榮里さんが小麦珈琲をふるまう場面も。「うん、やっぱりおいしい!」と笑う玉城さんに、「畑を前に、このロケーションで飲む小麦珈琲、最高ですね」と、眞榮里さんも満面の笑顔。

麦畑で飲む小麦珈琲は格別

麦畑で飲む小麦珈琲は格別

 

人と人が信頼し合い、応援し合い、育まれていく島おこし。「本気」の思いが形となって見えてくる、あたたかな現場でした。

紙芝居で伝える平敷屋の文化

高校卒業後にすぐ沖縄を離れ、県外で暮らしていた眞榮里さんは、「自分の地元のことを何も知らなかった」と振り返ります。

 

「たとえば平敷屋エイサーのことも、沖縄出身ではない周りの方から『すごいよね』と褒められて、そこから初めて平敷屋の伝統文化ってすごいんだとか、沖縄の良いところに気づかされたという感じなんです。でも帰郷して、この店を始めてから、地元のことをお客様にお伝えするためには自分自身がしっかり学び直さなければと思い、『平敷屋エイサー保存会』や『平敷屋朝敏を語る会』に参加して、先輩方にいろいろと教えて頂くようになりました」

店内で流れている「平敷屋エイサー」の映像
店内で流れている「平敷屋エイサー」の映像

 

平敷屋の偉人として語り継がれる、平敷屋朝敏(へしきやちょうびん)。眞榮里さんは、その物語を紙芝居にして伝える活動を行っています。きっかけは、平敷屋小学校に、地元で働く社会人として講話に招かれたときのこと。

作・眞榮里さん、絵・デコールデザインによる紙芝居

作・眞榮里さん、絵・デコールデザインによる紙芝居

 

「地域の歴史や文化のことを、自分なりに頑張って話したつもりだったんですけど、子供たちにちゃんと伝わったのかな、正直なかなか難しいなと感じました。

もっとうまく伝えるようになりたい、じゃあどうしたらいいんだろう?と考えたときに、絵本や紙芝居だったらストーリーとしてわかりやすく伝えられるのでは、と。それからクラウドファンディングで資金を募り、平敷屋出身のクリエイター、デコールデザインの南風亜矢子(はえあやこ)さんにご協力頂いて、手作りで平敷屋朝敏の紙芝居を完成させました」

紙芝居は、眞榮里さん自らが読み聞かせるスタイルで、定期的に小・中学校に出向いたり、お祭りなどで実演されています。「アガリメージョー」で、お客様のリクエストに応えて披露することも。物語に登場する、朝敏ゆかりの場所「平敷屋タキノー」にお客様をご案内することもあるそうです。

「平敷屋タキノー」
「アガリメージョー」から歩いて行ける「平敷屋タキノー」

「平敷屋タキノー」は高台から海を望む絶景

「平敷屋タキノー」は高台から海を望む絶景

 

「朝敏がくれたのは、平敷屋に暮らすみんなの安心と笑顔。その偉業をたくさんの人に伝えていきたい。そして、子供たちにはこの物語を通して、先人たちへありがとうの気持ちを忘れないようにね、と伝えていけたらいいなと思っています」

ホストとゲストの枠を超えて広がる人の輪

眞榮里さんのこだわり。それは、お客様に「いらっしゃい」と言わず、「こんにちは」と迎えること。「アガリメージョー」という空間の中で、ホストとゲストという関係を作らず、ふつうの暮らしに入ってきてもらったような感覚で、コミュニケーションできることを大事にしているそうです。

店内の柱に残されている成長の記録
店内の柱に残されている成長の記録

 

宿泊するお客様の中には、海外から訪れた観光客の方も。口コミで広がり、最近では、台湾、韓国、スウェーデン、オランダなど、さまざまな国籍の方が宿泊するように。

数年前、「平敷屋エイサー」に興味を抱いたことを機に宿泊したスイス国籍のエマヌエル・ハンさん(通称エマさん)もそのひとり。半年前、うるま市に移住してからは、すっかり常連のお客様に。慣れない外国暮らしをおくる中、眞榮里さんは頼れる相談相手でもあります。

「こんにちは!」と訪れたエマヌエル・ハンさん
「こんにちは!」と訪れたエマヌエル・ハンさん

 

沖縄の言葉、音楽、文化を敬愛するエマさんにとって、眞榮里さんと一緒に歌三線を奏でる時間は嬉しい楽しいひととき。この日は、2人で「安里屋ユンタ」を披露してくれました。

先頃、エマさんのご両親がスイスから来沖した際には、家族みんなで「アガリメージョー」に宿泊したのだそう。沖縄の自然や文化、人柄に心から感動したことを伝えられ、眞榮里さんにとっても素晴らしい体験になったそうです。

一緒に三線を奏でる眞榮里さんとエマさん

一緒に三線を奏でる眞榮里さんとエマさん

 

「外からいらした方が、自分が生まれ育った土地の文化を褒めてくれて認めてくれてリスペクトしてくれるというのは、今まで感じたことのない大きな喜びでした」と、眞榮里さん。

「『アガリメージョー』は、コテコテの沖縄ではなく、自然にそこにある沖縄の良さを大事にしています。平敷屋はいわゆる観光地ではないので、だからこそふつうの暮らしをおもしろがってくださったらいいなって。これからも、ここが地域に暮らす人と観光客の方との垣根を払う中間的な場所になれたら嬉しいですね」

アガリメージョー

住所 /
沖縄県うるま市勝連平敷屋3661
TEL /
090-1710-4106
Webサイト /
https://efg9042314.wixsite.com/e-fg

沖縄CLIP編集部

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