小さな通りの大きな夢《多和田社交ビル&すずらん通り会》

小さな通りの大きな夢《多和田社交ビル&すずらん通り会》

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歴史文化

放送日:2025.07.14 ~2025.07.18

初回投稿日:2025.07.22
 最終更新日:2025.07.22

最終更新日:2025.07.22

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宜野湾市普天間にあるレトロな社交街。「すずらん通り」と呼ばれる小さな通りの一角に、個性豊かな飲食店や雑貨店が集まる「多和田社交ビル」があります。

お昼時や週末になると、スパイスカレーやアジア料理、独創的なかき氷など、こだわりの逸品を求めるお客さんで賑わいます。歓楽街の面影が残る雑居ビルにたくさんの人が列をなす様子は、どこか不思議な光景です。

夜の街から昼の街へ。店主たちが一体となって、地域づくりに参加しているすずらん通りは今、少しずつ着実に、再び活気ある街へと変わろうとしています。

宜野湾市普天間2丁目にあるすずらん通り
宜野湾市普天間2丁目にあるすずらん通り

寂れた社交街の小さな雑居ビルが注目の場所に

大野華子さんが多和田社交ビルに「月を詠ム」を構えたのは2020年のこと。その頃の通りは、昼間の人通りがほとんどない状態だったといいます。

「内覧したときは、本当にザ・スナックという感じで(笑)。10年以上も空いていたようで、ビル自体に訪れる人もいませんでした。周りからも『あそこはやめた方がいい』、『飲食店は無理じゃないか』って反対されました」

しかし、大野さんの中では、初めてこの通りを歩いた瞬間に「あ、ここだな」という確信めいたものがあったといいます。

「イメージがパッと見えたんです。私がやりたいお店の雰囲気と、この通りが持つ荒廃した独特の空気感のコントラストがきっとハマるだろうなと」

その見立ては見事に的中。サイフォンで丁寧に淹れるコーヒーと独自で配合したこだわりのスパイスカレーを提供する月を詠ムは、オープン初日から行列ができるほどの話題となりました。

そして、この店の開店をきっかけに、多和田社交ビルにはこだわりのあるお店がひとつ、またひとつと増えていきました。料理のおいしさはもちろんのこと、レトロなスナックビルにあるという面白さに、トレンドやカルチャーなどアンテナ感度の高い人たちから注目されるスポットになったのです。

月を詠ム店主の大野華子さん
月を詠ム店主の大野華子さん

大野さんの感性がぎゅっと詰まったアートを感じる店内
大野さんの感性がぎゅっと詰まったアートを感じる店内

多和田社交ビルの個性豊かな仲間たち

ビル1階の奥に入っているのが、アジア料理が楽しめる「SANBAI」です。

多和田社交ビルには、飲食が入るテナントビルとは異なる魅力があると、店主の知名彩吾さんは言います。

「それぞれが個性的な“部屋”みたいな感じで、お客さんとして来てみても、このビルだけでいろいろなサービスが受けられる。とても面白いですよね」と知名さん。

SANBAIのオープンには、大野さんが一役買っています。元々知り合いだったという知名さんが店舗を探していると聞きつけた時は、すぐにビルの管理をしている不動産屋さんにかけあったそうです。

「2階は空いていたんですけど、彼のお店は絶対に1階がいいと思ったので。毎日チェックして、空きが出た瞬間に知名くんに電話して『明日内見に来られる? なんなら今来られる?』って(笑)」

こうして縁がつながり、SANBAIがオープン。タイカレーなどのアジア料理やスパイス、ハーブを使った自家製ソーセージが人気で、お昼どきはあっという間に満席になることも。

 

SANBAI店主の知名彩吾さん
SANBAI店主の知名彩吾さん

料理をする知名さん

料理をする知名さん

 

ビルの2階にあるのが、かき氷専門店「氷のELI(イーライ)」。ふわふわの氷に、果物をふんだんに使った自家製シロップがたっぷりかかった、ボリューム満点の贅沢なかき氷を楽しめます。

「多和田社交ビルの店舗の一員として、しっかりとした品質のものを提供するというのは意識していますね」と、真摯に店づくりに向き合う店主の知名朝常さん。

素敵な店が集まる多和田社交ビルで店を開くことは、知名さんの憧れでもありました。

「お客様との距離が近くて、知名さんに会いに来るお店ですよね」と大野さんが話すように、知名さんの愛される人柄もお店が人気の理由のひとつです。


氷のELI店主の 知名朝常さん
氷のELI店主の 知名朝常さん

見た目も華やかな氷のELIのかき氷
見た目も華やかなかき氷。訪れるたびに新しいおいしさに出合えます

カルチャーやファッションもここから

多和田社交ビルに入っているのは飲食店だけではありません。

「LETTER STAND lolo(レタースタンドロロ)」は、店名が表すように、手紙が書きたくなるような、作り手のこだわりが感じられる文房具を揃えたセレクトショップ。

併設された喫茶スペースでコーヒーをいただきながら手紙を書くこともでき、店主の岩下里美さんの思いが店づくりからも感じられます。

「こういう手紙や文房具に特化したお店って、沖縄の中でもすごく貴重だと思うんです。だから、里美さんが店舗を探していると聞いた時に、ぜひ多和田社交ビルに来てほしいなと思ってお声掛けしました」と大野さん。

食事帰りのお客さんがふらりと立ち寄って文房具を吟味している様子は穏やかで、店内にはゆったりと心地よい時間が流れています。

 

LETTER STAND loloの店内で。大野さん(左)と店主の岩下里美さん
LETTER STAND loloの店内で。大野さん(左)と店主の岩下里美さん

LETTER STAND loloの店内。つい手に取りたくなる品揃え
LETTER STAND loloの店内。つい手に取りたくなる品揃え
 

素敵なお店は、ビルの外にも。

同じくすずらん通りにある「alocasia vintage(アロカシア・ヴィンテージ)」では、上品で遊び心溢れるレディースヴィンテージの服を取り扱っています。店内は1点もののヴィンテージクロースや色とりどりの洋服が楽しく、おしゃれ心がくすぐられます。

「移転してきたばかりの頃は人通りが少なかったんですけど」と話すのは、店主の友知洋乃さん。「でもここ2年くらいで、ランチをしてお買い物を楽しむというコースができ上がってきていますね」と、街の変化を実感しています。


すずらん通りにあるalocasia vintage
すずらん通りにあるalocasia vintage

店主の友知洋乃さん(右)
店主の友知洋乃さん(右)。イベントでは飲食店以外のブッキングを担当するなど、大野さんの良き相談相手

店主自らが中心となって街を、地域をつくる

元々は「一人で切り盛りできる小さな店をやりたい」と多和田社交ビルに店を構えた大野さんでしたが、気持ちに変化が現れます。

「お店が一つ増えるだけで、ここまで景色が変わるんだなって驚きました。誰に紹介しても恥ずかしくない店舗が増え、そのお店を目当てに人がやってくることで、街が元気になる。普天間にはそのポテンシャルがあるんですよね。そのためにはまず、この地域がホットな場所だということわかりやすく自分たちで発信したほうがいいなと思いました」

そして開催されたのが、「普天参り」というイベントでした。2024年1月に開催した第1回では、すずらん通り沿いに約10店舗の飲食店や雑貨店などが出店。アーティストを招いての音楽ライブも行われました。

普段は閑散とした街に、子どもから大人までたくさんの笑顔が溢れる光景を目にした大野さん。「やっぱり普天間には人を呼べる力がある」と確信したといいます。

自分たちの店だけでなく、普天間という地域全体を盛り上げたい。大野さんは次のステップに進むべく、賛同する仲間と共に2024年6月、「すずらん通り会」を発足させました。


すずらん通りで開催された第1回普天参り(2024年1月)
すずらん通りで開催された第1回普天参り(2024年1月)

すずらん通りで開催された第1回普天参りの様子
同じく第1回普天参りの様子

歩行者天国で開催した第2回普天参り(2025年1月)
歩行者天国で開催した第2回普天参り(2025年1月)

第2回普天参りでは、地元青年会によるエイサーの演舞も
第2回普天参りでは、地元青年会によるエイサーの演舞も

普天間をもっと盛り上げるために

通り会の発足からわずか9ヶ月。大野さんたちは宜野湾市の普天間門前広場から普天満山神宮寺の本堂と境内の3エリアを会場に、二日間に渡って「福果(ふっか)」というイベントを開催しました。イベント名の「福果」は仏教用語で、福徳の因を積めば福徳の果が得られるという「福音福果」という言葉に由来しています。

SNSや口コミのみの宣伝でしたが、大野さんたちの想いに賛同する県内外から集まった総勢約70店舗もの出店や音楽ライブを楽しみに、連日多くのお客さんで賑わいました。

「福果は年に1回、毎年春頃に開催する予定です。地元の人だけでなく、旅行で沖縄を訪れる人が『春には福果があるから沖縄に行こうか』というふうになったら嬉しいですね。沖縄を代表するようなイベントに育てていきたいです」と大野さんは話します。

 
2025年3月に開催したイベントの様子
2025年3月に開催した福果の様子

2025年3月に開催したイベントの様子
天気にも恵まれ、幅広い層のお客さんが福果を楽しんでいました

すずらん通り会の思いに共感した普天満山神宮寺も協力
すずらん通り会の思いに共感した普天満山神宮寺も協力。福果のプログラムには金城良啓住職の説法が聴けるユニークな企画も

小さな社交ビルの挑戦は続く

多和田社交ビルのある普天間2丁目は社交街や歓楽街のイメージが強いですが、戦前まで遡れば、かつて存在した沖縄県営鉄道大山駅の門前町として栄えていたという歴史がありました。

一度は寂れてしまった街に、店が増え、人が増え、かつてのような賑わいや笑い声が戻ってくる。大野さんたちの活動を通して、活気溢れる普天間の未来が見えてくるようです。

すずらん通り会のメンバー

すずらん通り会のメンバー。お店の営業終了後にふらっと集まってのおしゃべりから、アイデア会議が始まったりすることも

 

【店舗情報】

月を詠ム
https://www.instagram.com/tsukiwo_yomu/

LETTER STAND lolo  https://www.instagram.com/letterstand_lolo/

SANBAI 
https://www.instagram.com/sanbai_okinawa/

氷のELI(イーライ) https://www.instagram.com/kori_no_eli/

alocasia vintage(アロカシア・ヴィンテージ) 

https://www.instagram.com/alocasia_vintage/


普天間門前祭 福果 https://www.instagram.com/fukka_futenma/

普天参り
https://www.instagram.com/futenmairi_

沖縄CLIP編集部

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放送日:2025.07.14 ~ 2025.07.18

  • 放送日:2025.07.14

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