沖縄にオーケストラの音楽を届ける《琉球交響楽団》
沖縄にオーケストラの音楽を届ける《琉球交響楽団》
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歴史文化
放送日:2025.12.01 ~2025.12.05
初回投稿日:2025.12.11
最終更新日:2025.12.11
最終更新日:2025.12.11
目次
沖縄初のプロフェッショナル・オーケストラ
琉球交響楽団(以下、琉響)は、2001年に誕生した沖縄初のプロフェッショナル・オーケストラです。
琉響には現在、沖縄でプロの演奏家として活動する40名が参加しており、年2回の定期演奏会をはじめ、離島を含む沖縄県内各地での公演や学校公演、乳幼児連れで楽しめる親子向け公演、さらには玉置浩二ら著名アーティストとのジョイントコンサートなど、幅広い演奏活動を行っています。
2005年には、沖縄の民謡やわらべ歌などをクラシックアレンジで演奏したアルバム『琉球交響楽団』を発表。そして創立20周年を迎えた2020年には、新作の交響組曲「沖縄交響歳時記」を収録した同名の2ndアルバムをリリースし、東京のサントリーホールでも演奏会を開催するなど、精力的に活動を展開してきました。

東京公演では、沖縄の四季をオーケストラで詩情豊かに描いた交響組曲「沖縄交響歳時記」を演奏し、県外のクラシックファンからも高い評価を得ました
音楽を学んだ学生が活動できる基盤をつくる
琉響を創設したのは、沖縄出身のトランペット奏者、祖堅方正(そけん・ほうせい)さんです。

琉響の創設者、祖堅方正さん
祖堅さんは長年、NHK交響楽団(以下、N響)の首席トランペット奏者として活躍していましたが、1990年に沖縄県立芸術大学(以下、県芸)に音楽学部が開設された際、N響を退団して帰沖。県芸の教授に就任し、後進の指導にあたるようになりました。
その中で痛感したのが、「沖縄の大学で音楽の専門教育を行い、才能ある若手を育成しても、卒業後、彼らが地元で活動できる基盤が整っていない」という現実でした。そこで自らが「基盤」を作るべく、2001年に琉響を設立。沖縄に初のプロオーケストラが誕生しました。

学生時代に祖堅さんの指導を受けた琉響のトランペット奏者・田中孝子さん(左端)は、「学生の頃はめちゃくちゃ怖くて、いつも怒鳴られていた記憶しかない(笑)」と振り返ります。「でも、愛を持って指導してくださっていたのが印象に残っています」
その創設当初から定期演奏会で指揮台に立っているのが、国内外で活躍する世界的指揮者、大友直人さんです。

琉響の創設当初からミュージックアドバイザーを務め、2016年以降は音楽監督として楽団を指揮する大友さん
大友さんと祖堅さんは、出身大学が同じ(桐朋学園大学音楽学部)という縁があり、大友さんが22歳でN響を指揮してデビューした際は、祖堅さんもそのコンサートに参加していたのだそう。大友さんは、祖堅さんから「沖縄にプロオーケストラを作りたい」という思いを聞き、「ぜひ実現すべきです」と祖堅さんの背中を押しました。
「私は日本の音楽家の一人として、この国のあらゆる地域で『人々が豊かな音楽のある文化的生活を十分に享受できること』は、絶対に必要だと考えています。そのために一番大切なのは、優秀な音楽家の集まりであるオーケストラが、地域を拠点に活動していくこと。それによって、地域の教育活動や文化活動に豊かな幅が出てきて、地域全体の文化の発展につながるからです。その意味で、沖縄にもプロのオーケストラが存在すべきだと思いました」
創設者の遺志を引き継ぎ、楽団が一丸となって活動を継続
祖堅さんが中心となり、大友さんを指揮者に迎えて創設された琉響には、県芸の卒業生をはじめ、沖縄を拠点に活動するプロの演奏家が続々と参加。「沖縄中に音楽を届ける」「音楽の力で県民を笑顔にする」をモットーに、沖縄初のプロオーケストラが本格的に始動しました。
しかし、活動を始めてまず直面したのが、「オーケストラが安定して活動できる基本財源をどう確保するか」という問題でした。
通常、オーケストラは演奏会の収入だけで活動資金を捻出するのは難しいため、基本財源は企業や自治体による寄付や助成が中心となります。特に、拠点となるエリアに大企業が少ない地方オケの場合、自治体からの助成が大きな柱になっているケースが多いのですが、沖縄ではクラシック分野での活動や団体に多額の予算をつけるという前例がないこともあり、創設以来、助成へのハードルが高い状態が続いています。
そのため創設から当面の間は、祖堅さんが必要経費の工面を含め、運営全体を担う形で活動を行っていました。しかし、祖堅さんは2013年に急逝。創設初期から琉響に参加し、現在は楽団員代表を務めるヴァイオリン奏者の高宮城徹夫さんは、「あのときは『先生がいままで一人でなさっていたことを、残された我々だけでできるだろうか』と、皆ですごく悩みました」と振り返ります。

楽団員代表を務めるヴァイオリン奏者の高宮城さん。琉響の活動には、第1回目の定期演奏会から参加しています
「でも、最終的には『やるしかない』という結論になりました。祖堅先生が創設された沖縄初のプロオーケストラを、このまま潰すわけにはいかないと。それ以降は、楽団員が手分けして運営のノウハウを学び、運営体制を整えてきました。大友先生も全面的に協力してくださって、ここまで活動を続けることができています」
実のところ、現在もしっかりした財政基盤は確保できておらず、団員はそれぞれ音楽教室を開くなどして生徒を教え、その収入で生計を立てながら琉響の活動に参加しているのだそう。大友さんは「こうした厳しい環境にもめげずに、四半世紀も活動を続けているのは、本当に素晴らしい」と賞賛します。
「私も25年間、琉響のメンバーと一緒に音楽作りをしてきていますが、沖縄の音楽家の人たちは、いろんな意味で才能が豊かな方が多いんですね。クラシック的にはあまり使わない言葉ですけれども、いわゆる『ノリがいい』というか『思い切りがいい』というか、とてものびのびと音楽を奏でてくれる。一回一回の演奏会での燃焼度が高いので、その演奏に参加できるのは、指揮者として、とてもうれしいことです」

定期演奏会の際は、大友さんが東京から駆けつけて指揮台に立ちます
「さらに琉響は楽曲のレパートリーも多く、沖縄という地域特有の旋法やリズムを活かしたオリジナル曲もたくさん作ってきています。こうした活動は今後、日本各地のプロオーケストラの目標や指針になりうるのではないかと思いますし、そこは一番やりがいを感じるところですね。この先の財政基盤の確保につなげるためにも、県民の皆さんにはぜひ演奏会に足を運んでいただき、琉響の活動を支援していただければと思います」
子どもたちに音楽の楽しさを伝えたい
現在、琉響では定期演奏会をはじめ、さまざまな音楽活動に取り組んでいます。その中でも特に力を入れているのが、地域の子どもたちに生の音楽を届け、音楽の楽しさを伝えるとともに、音楽に興味を持った子どもたちに楽器を教え、その成長を支援する活動です。
たとえば学校公演では、しまくとぅば(沖縄の方言)による昔話や童話の語りと、オーケストラの生演奏を組み合わせた、琉響オリジナルのプログラムなどを上演しています。学校公演で指揮をとることもある高宮城さんは、「音楽を聴いている子どもたちの表情が輝いていて、場面によってもその表情が変わる。子どもたちのそういう変化を感じられるのが嬉しいですね」と語ります。

学校公演では、生の楽器の音に触れた子どもたちの笑顔があふれます
また、琉響のコンサートマスターであるヴァイオリン奏者の阿波根由紀さんは、浦添市に拠点を置く「ムジカバンビーネ」という団体の活動に参加しています。これは、地域の子どもたちに無償で管弦楽器の演奏指導を行うもの。「楽器は準備するのも習うのもお金がかかる」というイメージがありますが、ここでは誰でも無料で楽器に触れ、阿波根さんらプロの演奏家による指導を受けることができます。

「ムジカバンビーネ」でヴァイオリンを教える阿波根さん。ヴァイオリンの演奏は難しく、最初はなかなか音を出すこともできないそう。でも頑張って続けていくと、次第に弾ける曲が増え、子どもたちも演奏する楽しさに目覚めていきます
阿波根さんは「ここはどんな子も参加できるので、たとえば学校になかなか行けなかった子が、楽器をやっているうちに学校に行けるようになったという話を聞くと、私たちも役に立った!と嬉しくなります」と語ります。「ヴァイオリンは難しい楽器だからこそ、この活動を通じて継続する力や頑張ってみる力、そして生き抜く力をつけてほしいと思っています」
加えて琉響のメンバーは、地域の学校の吹奏楽部での演奏指導も行っています。トランペット奏者の田中さんは、「琉響は『音楽の力で人とまちを元気にしたい』がポリシー。子どもたちが音楽の楽しさを共有できる場所を作ることも、私たちの役割だと考えています」と、活動に対する思いを語ってくれました。

吹奏楽部の部員を指導する田中さん。生徒からは「とてもわかりやすくて、自分でもびっくりするくらい上達が早い」と、喜びの声が寄せられています
さらに琉響では楽団の将来を見据えて、後進の育成にも取り組んでいます。その一つが、県芸の現役学生に声を掛け、琉響の演奏会に参加してもらうこと。プロオーケストラの活動を実際に体験することで、楽器や音楽に対する学びを深めるとともに、卒業後の琉響入団にもつなげられれば、との思いが込められています。

演奏会のリハーサルに参加した、県芸音楽学部学生の岩下ゆりさん(奥)。「プロのオーケストラと一緒に演奏する機会はあまりないので、こうした演奏会に参加できるのはありがたいです」
これからも沖縄中にオーケストラの音楽を届けていく
琉響は2025年、事務局を浦添から那覇に移転しました。事務局長の中村圭介さんは、「今後はこれまで音楽に馴染みのなかった皆さんにも、音楽を楽しんでもらえる機会を増やしていきたい」と、意気込みを語ります。

事務局長の中村さん。「私たちは沖縄のオーケストラなので、沖縄の隅々まで音楽を届けていきたいです」

ハロウィン時期には、事務所の移転お披露目として、新拠点であるてんぶす那覇前の広場を舞台に、フラッシュモブ・スタイルで「ボレロ」を演奏しました
「すべての沖縄県民に音楽を届ける」という目標に向かい、日々活動に取り組む琉球交響楽団。音楽を聴く人と、演奏者の喜びを生むウェルビーイングの循環が生まれています。
琉球交響楽団
- 住所 /
- 沖縄県那覇市牧志3-2-10 てんぶす那覇3F
- TEL /
- 090-9783-7645
- E-Mail /
- ryukyu.sym@gmail.com
- Webサイト /
- https://www.ryukyusymphony.org/
沖縄CLIP編集部
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