沖縄の森をつくり、つなげる《沖縄環境分析センター》
沖縄の森をつくり、つなげる《沖縄環境分析センター》
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歴史文化
放送日:2026.03.30 ~2026.04.03
初回投稿日:2026.04.08
最終更新日:2026.04.08
最終更新日:2026.04.08
目次
沖縄の自然環境を読み解く組織
宜野湾市真栄原にある「沖縄環境分析センター(以下、環境分析センター)」は、環境アセスメントや環境分析を主軸とする専門機関です。
開発前の土地で化学・物理・生物・大気などの調査を多角的に行い、環境への影響を最小限に抑えるためのデータや根拠を行政や事業者に提供します。
さらに、現場を熟知した専門スタッフがデータを読み解き、コンサルティングも担います。
また、巨木や文化財の指定・管理に関わる審議にも参画し、地域に眠る「見えない宝」を可視化し、保護と継承の判断を支えています。
取り組みの根底には、科学的手法で自然を記録し、次世代へ引き継ぐという一貫した姿勢があります。

沖縄電力からの委託を受け、「残波しおさいの森」の植樹選定、育成を行いました
潜在自然植生でふるさとの森を目指す
植物生態学には「土地的極相」という考え方があります。これは、その土地の風土に適した本来の植生(潜在自然植生)が、時間をかけて成長・成熟し、やがて「ふるさとの森」を形成していくという考え方です。
沖縄電力から依頼を受けた「残波しおさいの森」プロジェクトでは、潜在自然植生に基づいた植物の選定を担い、土地本来の力を引き出す緑化計画を提案・推進しました。
一方で、陸域から流出する赤土や化学肥料、農薬などが河川を通じて海へ流れ込み、海洋環境を悪化させ、サンゴの死滅の要因となっています。
かつての豊かなサンゴ礁を取り戻すため、平成元年ごろから大学研究者によるサンゴの移植が始まりました。環境分析センターも民間の先駆けとして参画し、現在も継続しています。
技術顧問の山城篤さんは話します。
「山ぬ禿ぎーねー、海ん禿ぎーん(山がはげれば海もはげる)という言葉が示す通り、陸・川・海は一体のものです。私たちは、海の景観や生物を指標として提示するなど、環境保全に資する取り組みを続けています」

赤土だった土地が落ち葉などの堆積で、栄養のあるふかふかな土になっていました

技術顧問の山城篤さん
タブノキは推しの木
樹齢100年近いタブノキ
環境分析センターの伊佐義人さん
タブノキは、環境分析センターの人々にとって「推しの木」ともいえる存在です。
環境分析センターの伊佐義人さんが教えてくれました。
「沖縄本島中南部では、沖縄戦や戦後の開発の影響で、多くの森が失われました。その結果、地域本来の樹種とは何かという問いが長年研究され、近年、この地域の潜在自然植生は、タブノキを中心とした常緑広葉樹の森であったことが明らかになってきました。
タブノキには、他の樹種にはない特性があります。土壌に水分を蓄える力に優れ、深く張る根で地盤を安定させます。さらに、葉に多くの水分を含むため燃えにくく、台風や火災にも強い性質を持ちます。鳥や昆虫が集まり、ふんによって土壌が肥沃化することで、手をかけずとも自然の循環の中で森を育てます。
かつてタブノキは、ウコーギ(御香木)と呼ばれ、沖縄の線香の材料として重宝されました。環境圧にも強く巨樹になることから、“王様の木”として集落や祭祀の場にも生育していました。その大木のもとに人々が集い、多様な生態系が育まれていました。しかし、農耕の進展や戦争の影響で肥沃な土地から姿を消し、現在では御嶽や崖地、米軍基地内など、人の手が及びにくい場所にわずかに残るのみとなっています」
観察とは、見て感じて考えること

仲田先生にとって、みちくさというライフワークは本来の沖縄を取り戻すこと
環境分析センターの顧問を務める仲田栄二先生は、40年以上にわたって本島や離島を歩き続けてきました。
仲田先生は、植物生態や植物社会学、地形の読解、土壌の判断、環境復元などの知識を横断的に備え、さらに長年の現地データを体に刻み込んでいます。
「自分の目で確かめることが大事です。足で踏み、風を感じ、光の差し込み方を見て、考えることです」と仲田先生。
先生が現場で読み取るのは、地形、光の当たり方、塩風、水の流れ、植物の配置などです。それらを総合的に捉え、土地が何を語っているのかを読み解きます。
山のふもとから頂へと続く微細な環境の変化、海岸から内陸へと移り変わる植生の連なり、それらを読み解く力は、同じ場所を何年にもわたって何度も訪れてきた経験によって培われたものです。
先生が特に重視しているのが土壌です。
「一見、ただの更地でも、土を掘れば、かつての生態系の記憶が残っています。どのような種子が眠り、どのような根が生き延びているのか。開発に際しては、せめて土だけでも残してほしいですね」と仲田先生。
かつて何が存在していたのか。なぜ今、この植物がここにあるのか。その問いを重ねることで、その土地の「本来の姿」が見えてきます。
先生が用いる言葉が「潜在自然植生」です。目には見えないものの、確かにそこに存在するはずの本来の植生を読み解くことが、先生の仕事の核心にあります。
先生はそれを、「レントゲンのように緑の健康状態を見ているのです」と表現します。
表面的に整えられた緑ではなく、機能する緑。外来種の花で彩られた景観ではなく、鳥が訪れ、虫が集い、土が育つ生態系。それこそが本来の植生です。

今年80歳を迎える仲田栄二先生

沖縄方言でチビククヤー(オオバギ)。仲田先生が子どもの頃は用を足した後の紙代わりだったそう
みちくさ図鑑で発信したいこと
環境分析センターでは、仲田先生と過ごした時間で得た知恵や自然を知るという貴重な体験を、より多くの人に届けたいという思いから、YouTubeチャンネル「みちくさ図鑑」を立ち上げました。
「伊是名島出身の私は、小さい頃から“山学校”で育ち、みちくさの中でさまざまなことを学んできました。みちくさは、ただの寄り道ではありません。立ち寄る場所を知っているということなのです。馬はみちくさが上手で、好きな草のある場所を知っていて、そこに立ち寄るのです」と仲田先生。
若い世代にも自然に見てもらえるよう、映像は1本30秒にしています。
しかし、その短い時間の中に、仲田先生が長年のフィールドワークで培ってきた観察眼と、その場所への深い愛着が詰まっています。
先生の言葉を凝縮し、丁寧につなぎ合わせることで、短くても本質が伝わる映像を目指しています。
「みちくさ」のフィールドは、現在の沖縄のどこかにある緑地。仲田先生がかつて調査した場所を再び訪れ、当時と現在を比較しながら観察し、記録していきます。そこに映し出されるのは、地図にも看板にも載らない、沖縄の自然の「今」です。

30秒のみちくさには、沖縄の自然の「今」があります

配信用の映像を撮影する仲田先生

南城市の海岸でクロヨナの木を観察
絵で伝えるカレンダープロジェクト
植物の話は、専門用語だけではなかなか心に届きません。その発想から生まれたのが、植物画のカレンダープロジェクトです。
担当しているのは、「みちくさ図鑑」の発信を担う環境分析センターの外間ゆり子さんです。
「仲田先生と“みちくさ”をするとき、先生がご自分で描かれた、木の絵をいただくことがあります。木の特性が丁寧に描かれていて、そこに『“知る”を楽しむ会』という言葉が添えられています。カレンダーを通して、まず木の名前や特性を知って、木を身近に感じてほしいです。中南部を代表する樹木をテーマに、木の特徴や生育条件、種子散布の仕組みなどを、わかりやすく解説し、完成したカレンダーは地域へ無料で配布して、教育資料として活用してほしいと思います」
※クロヨナとは(カレンダーにはこのような情報が入ります)
クロヨナの種は、海流(黒潮)に乗って熱帯地域から漂着したものが自生し、繁殖したといわれ、古くから沖縄の海岸風景を形作る“潜在自然植生”を支える木の一つ。虫たちが集れば、その虫を目当てに鳥がやってきます。鳥はふんを落とし、ふんは土地を肥やします。これが、森の命の連鎖です。クロヨナの小さく愛らしい花は、蜜源にもなりますし、落ちた花や枯れ葉は、微生物の餌になり、分解されて土に還り、周りの木も育てます。
さらに、クロヨナの太く長い根は、地中深くまで伸びて、しっかりと水を吸い上げ、その土地を災害から守ってくれます。そして、広がる枝と大きな葉は、強い風をやわらげ、木陰をつくります。私たちは、クロヨナから大きな恵みを、日々受け取っています。海を渡り、沖縄に根を張り、森を支え、命をつなぐ木。クロヨナもすごい木なのです。
イラストを手がけるのは、都市計画や環境デザインにも携わる久場麗美さん。植物の生態や仲田先生の哲学を、絵という表現で翻訳しています。
「仲田先生から自然を“読み解く”という視点を教えていただいてから、私自身もみちくさするのがより楽しくなりました。自然はただそこにあるものではなく、時間や記憶を内包した存在なのだと感じています。
守る自然そのものが少なくなってきている今だからこそ、現状維持ではなく、本来の姿を読み解き、取り戻していくための知識や実践が必要だと思っていて、
みなさんの活動には、すごく共感しています」

クロヨナの葉っぱ

カレンダーに掲載するクロヨナ。まるで実物のような瑞々しさ

イラストを担当する久場麗美さん自身、自然や環境を考えるプロジェクトに関わることも多く、仲田先生や環境分析センターの皆さんと同じ志で参加しています

環境分析センターの外間ゆり子さん
沖縄の未来のために大人が今できること
仲田先生の胸中には、戦後80年を経た現在もなお、中南部の緑が本来の姿に戻っていないという切実な憂いがあります。
焼け野原となった南部の土地が、タブノキを中心とした本来の生態系を取り戻すためには、今この瞬間から植え始めるしかありません。
それも、地域固有の遺伝子を持つ樹木を、適切な場所に植えることが求められます。
「50年、100年、200年と木が育てば、子どもたちに本物の環境を残すことができます。戦争の記憶を乗り越えるためにも、南部に森が育ってほしいと願っています」と仲田先生。
世界自然遺産に指定された北部・やんばるに注目されがちですが、中南部にもかつては豊かな生態系が存在していました。タブノキの森が広がり、鳥が集い、虫が息づき、水が循環する環境があったのです。
それが失われた現在、都市部の森林率は1%にも満たない状況にあります。子どもたちが自然に触れられる場は、あまりにも限られています。
沖縄は小さな島々から成り立っています。台風や津波、塩風、干ばつといった厳しい自然条件の中で、人々は生きてきました。その暮らしを根底から支えてきたのが、深く根を張る森の存在です。
仲田先生は続けます。「海と森と川が一体となった環境が守られなければ、文明そのものが成り立たなくなります」
その言葉は、現代への警鐘であると同時に、未来への祈りでもあります。
沖縄環境分析センター
仲田栄二先生の沖縄みちくさ図鑑
沖縄CLIP編集部
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放送日:2026.03.30 ~ 2026.04.03
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