紅型を次世代へ繋ぐ染色家 「染千花」
紅型を次世代へ繋ぐ染色家 「染千花」
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歴史文化
放送日:2025.12.15 ~2025.12.19
初回投稿日:2025.12.23
最終更新日:2025.12.23
最終更新日:2025.12.23
染千花と紅型の歴史
宜野湾市嘉数の住宅街に佇む、紅型研究所「染千花」を訪ねました。1987年に知花千賀子さんが開業し、現在は親子二代で営まれている小さな工房です。
紅型(びんがた)とは、琉球の時代からこの島で固有に育まれた型染め文化の総称。自然物や生物をモチーフに彫られた型紙を用い、色とりどりの染料で鮮やかに染め上げる伝統工芸です。

イリオモテヤマネコを中心に様々な動植物が表された紅型作品
その文化は14世紀ごろに誕生し、琉球の王族らと共に繁栄したといわれています。そして現代においても、伝統衣装や振袖などに染められる事の多い、沖縄の県指定無形文化財です。

手彫りされた型紙に手作りの糊を置く、防染の為の工程
異色の経歴を持つ染色家
そんな格式高い紅型の世界において、新進気鋭の作家として注目を浴びるのが、染千花の二代目、染色家の知花幸修(ちばなゆきなが)さん。

自身の作品に囲まれた工房で静かに型彫りをする幸修さん
幸修さんは沖縄県立芸術大学のご出身ですが、当初から紅型の道を目指されていた訳ではなく、卒業後しばらくは音楽の世界に没頭されていました。
バンド活動を中心に暮らす傍ら、幼い頃から身近であった紅型を見よう見まねに染め、バンド仲間たちに披露するうちに、いつしか「染色家として生きたい」という思いが芽生えます。
それからというもの、母のもとで染色の基礎から学び直し、一方で音楽表現を通して培われた自由の精神やサブカルセンスを独自に昇華させていきました。

ハードコアバンドで轟音を鳴らしていた時代の幸修さん
知花幸修さんの活動と作品
幸修さんの初期作品にして代表作ともいえる「ハジチトートバッグ」は、沖縄に根付く刺青文化であるハジチをアメリカンタトゥーの様相で型彫りし、琉球藍を用いて染めた一品。
これが県内のセレクトショップで販売され始めると瞬く間に話題となり、それまで沖縄の文化や伝統工芸に馴染みの無かった若い層にまで、紅型やハジチの認知が広がりました。

宮古諸島に伝わるハジチ文様と伝統柄を組み合わせた本染トートバッグ
幸修さんはこの作品を機に、個人作家としての活動幅を飛躍的に広げていきます。
手塚プロダクションやオニツカタイガーとのコラボ作品を実現したり、JTA(日本トランスオーシャン航空)のヘッドレストカバーを制作するなど、県外にも紅型の素晴らしさを届けるべく邁進しました。

絶滅が危惧されるイリオモテヤマネコ保全活動の一環としてデザインされた、JTA機内ヘッドレストカバー
そうした取り組みは沖縄の企業やアーティストの目にも留まり、オリオンビールの缶デザインを手掛けたり、県出身ラッパーAwichのミュージックビデオに紅型デザインを提供するなど、業種も越えて協業を築いていきます。

2025年10月に数量限定で発売された幸修さんデザインのオリオンビール
また、紅型の理念や手法に基づいた「紅型壁画」というアート技法を考案し、アウトレットモールあしびなー(豊見城市)や宮城島(うるま市)の外壁、rokkan COFFEE(那覇市首里)店内などにも、そのアートワークを残しています。新潟県で開催される国内最大級の音楽フェス「フジロックフェスティバル」のステージ装飾として、その大型作品が掲げられた事もありました。

ロッカンコーヒー首里店のエスプレッソマシンには、幸修さんの鮮やかな紅型デザインが施されています
前衛的な表現の根幹にあるもの
アニメシーンから音楽業界、飲料メーカーや航空会社まで、これまで紅型と接点の無かった業界にも踏み込み、一見前衛的で奔放な活動をしているように見える幸修さんですが、その奥には「紅型を守りたい」という意志があります。
紅型は、王族や一部の特権階級に囲われたことで大衆に広がらなかったという局面もあり、やちむんや琉球ガラスなどその他工芸分野に比べても、まだまだ身近ではありません。
そんな文化を衰退させる事なく次世代へ繋ぐため、1人でも多くの人を振り向かせようと、試行錯誤で表現を刷新されているのです。
工房では紅型教室を定期開催し、時には観光客も受け入れ、紅型の普及や後継者育成にも努められています。

初心者から独立志望の経験者まで、紅型教室には様々な方が集まります
沖縄戦によっても、一度は途絶えかけた紅型。日本軍が残した地図は型紙に、米軍のテントを生地に、割れたレコード盤はヘラとして、焼け野原でもその灯火が消えることはありませんでした。
先人たちが必死に繋いでくれた文化を、後世へ受け渡したいと幸修さんはいいます。

工房からほど近く戦跡としても名高い嘉数高台から、生まれ育った街を望む幸修さん
かつての激戦地、そして今なお米軍機が飛び立つ普天間基地のふもとで、今日も鮮やかな色は染められるのです。

嘉数高台の展望台から望む、普天間基地内のオスプレイ

翼を広げるミサゴ(オスプレイ)とアメリカナイズされた民衆。沖縄の現状を風刺した初期作品
紅型研究所「染千花」
- 住所 /
- 沖縄県宜野湾市嘉数3-16-7
- Webサイト /
- http://somesenka.com
- Instagram /
- https://www.instagram.com/somesenka/
沖縄CLIP編集部
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