ジャズライブとともに生きていく《KAM' HOUSE・香村悦子》
ジャズライブとともに生きていく《KAM' HOUSE・香村悦子》
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歴史文化
放送日:2025.09.01 ~2025.09.05
初回投稿日:2025.09.05
最終更新日:2025.09.05
最終更新日:2025.09.05
目次
夫婦で営んできた老舗ライブハウス
那覇市牧志駅近くの国際通り沿いに、45年続くジャズ専門の老舗ライブハウス「KAM'S HOUSE(カムズハウス)」があります。
KAM'S HOUSEがあるのは国際通り沿いのビルの2階。大きく開放的な窓と「JAZZ」の文字が目印です
ここは、沖縄屈指の名ジャズピアニストだった故・香村英史さんが、1980年に開いたお店。若い頃、香村さんは嘉手納基地内のビッグバンドで演奏していましたが、沖縄が本土復帰し、ベトナム戦争が終わった1970年代後半以降は、基地内での仕事が激減。香村さんは「自分たちが演奏できる場所を作ろう」と、1980年、国際通りのひとつ裏の通りにKAM'S HOUSEをオープンしました。その後、2000年頃にモノレールの工事が始まった影響で、2003年に急遽、現在の国際通り沿いのビルに移転しました。
沖縄ジャズ界を牽引してきたレジェンド・ピアニスト、香村英史さん
香村さんの独創的な演奏と店のアットホームな雰囲気は、多くのミュージシャンとジャズファンに慕われ、愛されてきました。しかし、香村さんは2021年2月に病で逝去。以降はずっと夫を支えてきた妻の悦子さんが店を引き継ぎ、営業を続けています。
「香村英史が元気だった頃は、彼が日々の演奏をすべて仕切っていましたが、亡くなってからは私がそれをやらなきゃいけない。最初は『大丈夫かな、やっていけるのかな』って不安でした。でもやっぱりジャズが好きだし、香村英史が開いた店だから、なんとかして続けたいなと。ミュージシャンやお客さんも『お店を残してほしい』と言ってくれたので、みんなに支えられながら毎日営業しています」
開店準備を整える悦子さん。「JAZZ KAM'S」の看板をセッティングしたら、今夜もライブが始まります
沖縄のレジェンド・ピアニスト
KAM'S HOUSEは、悦子さんが香村さんと出会った場所でもあります。もともとピアノが好きで、ジャズピアノが聴ける店を探しては、県内のライブスポットに足を運んでいたという悦子さん。KAM'S HOUSEで香村さんのピアノに出会い、その演奏に惚れ込みました。
「彼は本当に特別な、素晴らしいピアニストだったと思います。指が長くてきれいで、ピアノを弾くべくして生まれた人なのかなと。その弾き方もすごく素敵で、かっこよかったんです(笑)。演奏にもユーモアがあって、とても面白いピアノでした」
若き日の香村さん。悦子さんはもちろん、沖縄中のジャズファンから大人気のピアニストでした
そのうち悦子さんは、香村さんが開くピアノ教室にも通うようになりました。二人の距離が縮まって結婚した後は、悦子さんも毎晩店に立ち、お客さんとともに香村さんのピアノに耳を傾け、拍手を送り続けました。その音色は、今も悦子さんの胸の中に響いています。
「もう彼の演奏は聴けなくなったけど、でも私はやっぱり心のどこかで、『香村英史のピアノが聴きたい』って思ってるんでしょうね。今も毎晩ステージの演奏を聴きながら、香村英史のピアノを求めてるんだと思います」
KAM'S HOUSEに出演するピアニストの広瀬千代さんは、「香村さんは沖縄のレジェンド・ピアニスト。体の中からスイングがあふれ出ていました」と語ります
年中無休でジャズが聴ける店
KAM'S HOUSEのモットーは「毎日ジャズの生演奏が聴ける店」。沖縄にはジャズ専門のライブハウスが複数ありますが、その多くは定休日を設けており、「年中無休」はかなり珍しい営業スタイル。悦子さんは「うちは『ここに来ればいつでもジャズが聴ける店』として長年やってきたし、これからもそうありたい」と、今も日々休むことなく、毎日店を開け続けています。
「お客さんに『いつでも生演奏が聴けて嬉しいです』って言われると、やっぱり『やっててよかった』って思います。大変といえば大変ですけど、私が続けられる間は続けていきたいなと。もし私が店に出られなくなっても、店を閉めるんじゃなくて誰かに引き継ぐとか、そういう形で残していけたらと思っています」
「生ビールと生バンドあります」というウイットの効いたコピーは、香村さんが考えたものだそう
ライブ配信でジャズファンとつながる
香村さんが亡くなり、悦子さんが店を引き継いだ2021年は、ちょうどコロナ禍の時期。今までのように「毎日生演奏」ができない日々が続きましたが、それでも悦子さんは「年中無休」を守るべく、ライブの有無にかかわらず毎日店に通い、店を開け続けました。
そしてコロナ流行の波が少し落ち着き、ミュージシャンが店に来られるようになった頃に始めたのが、インターネットを使ったライブ配信です。お店に来られないお客さんに向けて「音楽を届けたい」という気持ち、そして「カムズはライブを続けていますよ」というメッセージを込めて、悦子さんはライブ配信に取り組んできました。
ライブ配信には、スマホとSNSのライブ配信機能を使用。シンプルな仕組みですが、画面越しにステージの雰囲気が伝わります
コロナ禍が落ち着いた現在は、以前同様、年中無休で生演奏を行っています。悦子さんは「コロナ禍が終息してお店を再開したとき、お客さんが戻ってきてくれたのは、本当に嬉しかったし、ありがたかったですね」と、苦労の日々を振り返ります。
演奏はもちろん、悦子さんの人柄に惹かれて通う常連客もたくさんいます
一方で、コロナ禍がきっかけで始めたライブ配信も、今やステージの一部としてすっかり定着しています。現在も毎日1曲はライブ配信を行っており、事情があって店に足を運ぶ機会が作りにくいジャズファンやカムズファンに、とても喜ばれているそうです。
カムズ道場で若手を育てる
KAM'S HOUSEは「お客さんにジャズの生演奏を届ける場所」であると同時に、ミュージシャンにとっては「ジャズという音楽を実地で学べる場所」でもあります。
香村さんの薫陶を受けたベテランから、香村さんを直接は知らない若手まで、多数のミュージシャンがステージに立ちます
生前の香村さんは、(音楽のプロではない)ピアノ教室の生徒には優しく接していましたが、ステージに立つプロミュージシャンに対しては、とても厳しかったのだとか。その心中を、悦子さんはこう語ります。
「ここでは自分がバンマス(バンドマスター)で、お客さんからライブチャージもいただいて演奏してるわけだから、プロとして演奏が成り立たないようなミュージシャンを、このステージに出すわけにはいかない、と考えてたんでしょうね。本当に厳しくて、ここは『カムズ道場』って呼ばれてたんですよ(笑)。でも、本人はその人に頑張ってほしいからこそ、厳しく言ってたんだと思います」
ドラマーの新屋修一さんも「香村さんに教わったことはたくさんあります」と懐かしみます。「一度なんか、後ろでドラムを叩いてたら『何もするな、いらんことするな』って怒られました(笑)」
ジャズという音楽の魅力を広めたい
そうした香村さんの思いを、今は悦子さんが自分なりのスタイルで受け継ぎ、若手ミュージシャンの成長を後押ししています。
その一つが、毎月のライブスケジュールの作成(ブッキング)です。現在、KAM'S HOUSEには20名以上のミュージシャンが出演しており、悦子さんは毎月「次は誰と誰を組み合わせようか」と考えながら、一人ひとりと連絡を取り合い、出演日を決めています。悦子さんは「大変ですけど、楽しいですよ」と微笑みます。
「ここでずっといい演奏ばかり聞いてる私が、一番贅沢かなって思います」と悦子さん
また、最近のKAM'S HOUSEでは、若手とベテランが一緒に演奏する機会も多く、若いミュージシャンにとっては、自身のスキルを磨いて成長するための、登竜門的な場所となっています。悦子さんはその姿に「本当に頼もしいです」と目を細めます。
「今後は香村英史のピアノを知らない、若い世代のミュージシャンやお客さんも増えてくると思いますが、そういった方にもこの店を介して、ジャズの生の演奏に触れてもらいたい。そして彼が愛した『ジャズ』という音楽の魅力を、もっと広めていけたら嬉しいですね」
店の壁にびっしりと貼られた写真やチラシには、悦子さんが香村さんと共に積み重ねてきた、ウェルビーイングな思い出が詰まっています
KAM'S HOUSE(ライブ配信もこちらから)
沖縄CLIP編集部
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