夢は叶う ハーベストムーン《HARVEST MOON》

夢は叶う ハーベストムーン《HARVEST MOON》

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歴史文化

放送日:2025.07.07 ~2025.07.11

初回投稿日:2025.07.16
 最終更新日:2025.07.16

最終更新日:2025.07.16

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広い駐車場のある南城市のハーベストムーン

広い駐車場のあるハーベストムーン

 

南城市の親慶原(おやけばる)交差点のすぐそばに、白い外観が目を引くカフェ「HARVEST MOON」(以下ハーベストムーン)があります。

店内には、カフェスペースのほか、色鮮やかなシャツや水草・麻糸を使ったおしゃれなバッグの販売コーナー、そしてアフリカの子どもたちの暮らしを紹介するギャラリーがあります。

代表の下川樹也さんは、ハーベストムーンを拠点に、アフリカへの支援活動と、沖縄の子どもたちに夢を持つ素晴らしさを伝える活動を行っています。

 

2020年に沖縄に移住した下川樹也さん

2020年に沖縄に移住した下川樹也さん

九死に一生を得たケニアでの経験が人生を導く

「高校時代から、世界に行きたいという気持ちが強くありました。特別な理由も根拠もないのに、自分の中で世界といえばアフリカだったんです。クラスメイトや先生に『将来はアフリカに行く』と語り続けていました。

26歳の時、広告カメラマンとして働いていた僕は、たまたまケニアの人と出会いました。そういえば自分はアフリカに行くのが夢だったと思い出し、『よし、ケニアに行こう!』と、その人に連れられてケニアへ向かったんです。

最初に訪れたのは、ナイロビ近郊のゴモンゴというスラムでした。到着してすぐ、案内してくれた人に『一週間経ったら迎えに来るから』と置き去りにされてしまいました。

すると翌日には体が震え、歯がカチカチ鳴り、高熱が出てマラリアにかかってしまったんです。

スラムというのは、見えなくなるほど遠くまでずらっとバラック小屋が広がっている場所なんです。ポツンと日本人の僕だけが取り残され、ここに自分がいることを誰も知らない。病院にも行けず、薬もない状況で、もうこのまま死ぬかもしれないと覚悟しました。

すると子どもたちが僕をボロボロの小屋に運んでくれて、毎日、白く濁った水のようなものや小さな皿に盛った豆を運んでくれました。体をさすりながら歌を歌ってくれる子もいました。

日本に残した1歳の我が子を想い、絶望に浸っていましたが、3日も経つと不思議と冷静になりました。自分は今、マラリアになって死にかけているけれど、実はこれは特別なことじゃない。このスラムでは扉の向こうにも同じような状態の人がたくさんいるんだと気づいたのです。

自分はその現実を『体で』知るためにここへ来たんだ、と思えた瞬間でした。

自分はここで死なないと感じ、『もし生きて帰れたら、ここの子どもたちのために生きよう』と誓ったんです」


アフリカの暮らしや、下川さんの現地での取り組みを紹介するギャラリースペース
アフリカの暮らしや、下川さんの現地での取り組みを紹介するギャラリースペース

孤児院設立への道のり

日本に帰国後、下川さんはケニアで撮影した写真を周囲に見せながら「アフリカにはこんな子どもたちがいる」と話して回りました。しかし、見せて終わりでは何も変わらないと痛感します。

「まずは自分が行動で何かを示さなくてはいけない」と考えた下川さんは、1995年、家族に頼んで300万円を用意し、ケニアに最初の孤児院を建設しました。

38人のストリートチルドレンとともにスタートした孤児院でしたが、毎月の運営資金が必要です。下川さんは日本で音楽イベントや格闘技イベントを開催し、友人たちに「毎月3000円の支援をケニアへ」と会員を募って、毎月2000ドルを現地へ送り続けました。

 

1995年ケニアのキスム市に設立した孤児院

1995年ケニアのキスム市に設立した孤児院

学校建設と20年間の継続支援

やがてキスム市長から「もっと規模を広げてもらえませんか」と要請され、土地を無償で提供されました。

2005年には、莫大な資金と自身の貯金をつぎ込んで、新しい孤児院と180人が通う小学校を建設。

2015年までの20年間、毎月支援金を送り続けた結果、学校運営が軌道に乗り、孤児院の運営費もまかなえるようになりました。

沖縄移住と新たなプロジェクト

2020年、60歳で沖縄に移住した下川さんは「残りの人生をアフリカに捧げよう」と決意し、「ハーベストパラダイス」というプロジェクトを立ち上げました。

キスム市では安全な水が手に入らず、泥水を飲んで感染症になる人が多く、1日の大半を水汲みに費やす生活が続いていました。

この地域の水問題を解決するため莫大な資金が必要でしたが、大阪の「サラヤ」という企業から3000万円の支援を受けることができました。

専門の大型ボーリングマシンを使って200メートルの深さまで掘り、WHO(世界保健機関)の飲料水基準をすべてクリアした"太古の水"を供給できるようになりました。

この井戸により、それまで1日5時間かけて水を汲みに行っていた人たちが、その必要がなくなったのです。

 

汲み上げた安全な水は、多くの子どもたちの命を救う水となりました

汲み上げた安全な水は、多くの子どもたちの命を救う水となりました

ハーベストパラダイスでは、水が確保できたことによって、さまざまな産業が生まれました
ハーベストパラダイスでは、水が確保できたことによって、さまざまな産業が生まれました

働く喜びと農業の革新

水の確保によって、人々には時間の余裕ができました。下川さんは、人々に自分たちでお金を稼ぐ喜びと、自分で暮らしを支える生きがいを手に入れてほしいと、さまざまな収入源を作り出しました。

例えば女性たちには、水草や麻糸を使った手仕事でカゴや雑貨を作ってもらい、それらをハーベストムーンで販売する仕組みを作りました。

さらに、沖縄科学技術大学院大学(OIST)発のベンチャー企業「EFポリマー」と連携し、バナナやみかんの皮などの天然素材でできた"超吸水ポリマー"を使った農業実験を開始しました。

このポリマーは自重の100倍の水を保水でき、一度水を撒けば土の中にたっぷりと水を蓄えることができます。干ばつや水不足に悩む地域での収穫量向上が期待できます。

 


水草を使ってカゴを作る女性たち。人生で初めて給料を手にする人も現れました
水草を使ってカゴを作る女性たち。人生で初めて給料を手にする人も現れました

現地で仕入れて、店内で販売しているカゴバッグ
現地で仕入れて、店内で販売しているカゴバッグ

カラフルなシャツは、サイズや柄を選んでセミオーダーできます

カラフルなシャツは、サイズや柄を選んでセミオーダーできます


ハーベストパラダイスのモデルを務める13歳(当時)のヘレン
ハーベストパラダイスのモデルを務める13歳(当時)のヘレン(右)。モデルとして収入を得ました

文化やスポーツ活動に触れる豊かさ

「ただ生きるだけでなく、人生はもっと楽しいほうがいい」という下川さんの思いから、村をあげてのビューティーコンテストを開催しました。優勝した13歳の女の子ヘレンは、ハーベストパラダイスの"アンバサダー"となり、沖縄のジュエリーやドレス作品と一緒に撮影したポスターのモデルとして報酬を得るようになりました。

また、下川さんの思いに共感したFC琉球の選手からボールとスパイクの提供もあり、サッカーチームを設立しました。さらに、ラグビー経験のあった下川さんは大人のラグビーチームも作りました。

支援の優しい循環

「ある時、沖縄には子ども食堂があって地域の人たちが子どもの成長を見守っているという話を、何気なくラグビーチームにしたんです。するとその2週間後、チームメンバーが一列に並び、"To Okinawa Children. 10,000 Kenyan Shilling"と書かれたプレートを持って立っていました。

彼らは土の家に住み、電気も水道もない状況でありながら、2週間かけて募金活動を行い、沖縄の子どもたちにご飯を食べさせてあげてほしいとお金を集めてくれたのです。僕は人生で初めて、アフリカの人たちからお金をもらいました」と下川さんは語ります。

また、運命的な再会もありました。2021年、キスム市長との会談をセッティングしてくれた政治家デイビッド・ニャンコ氏が、実は1995年に下川さんが作った孤児院の一期生だったのです。

当時5歳だった彼は、「今、僕たち日本人がみんなのことを助けるけど、やがてみんなが日本人のことを助ける日が必ず来るから」という下川さんの言葉を覚えており、「今日がその日だ」と言って食事代を支払ってくれました。


ボールがあればプレイできるサッカーは、子どもたちに夢と希望を与えます
ボールがあればプレイできるサッカーは、子どもたちに夢と希望を与えます

大人のラグビーチーム。現在ケニアのクラブリーグで2位という成績を収めています
大人のラグビーチーム。現在ケニアのクラブリーグで2位という成績を収めています

ラグビーチームの選手たちから沖縄の子ども食堂へ送られた寄付
ラグビーチームの選手たちから沖縄の子ども食堂へ送られた寄付

沖縄での教育活動を通して目指すこと

沖縄移住後、下川さんは小・中・高・大学で「思ったことを口にする大切さ」を伝えています。

特に2024年に浦添市宮城小学校で行った講義は大きな反響を呼びました。下川さんの話を聞いた子どもたちが自発的に、アフリカの人たちの手仕事を販売して売り上げに貢献したいと、バザーを開催。見事に商品を完売させました。

その子どもたちは卒業式で、「愛する人からもらった大切な『Just do it. 夢を叶えろ』。この言葉は一生忘れません」と下川さんへの感謝を発表しました。

 

2024年の9月に浦添市立の宮城小学校の6年生に行った講義の様子
2024年の9月に浦添市立の宮城小学校の6年生に行った講義の様子

地元のフリースクールの子どもたちが下川さんに会いに来ることもしばしば
地元のフリースクールの子どもたちが下川さんに会いに来ることもしばしば

フリースクールの子どもたちに、ハーベストムーンでの作品の販売を提案
フリースクールの子どもたちに、ハーベストムーンでの作品の販売を提案する下川さん。「子どもたちの可能性を広げるお手伝いもしていきたい」

まだまだ続く下川さんの挑戦

下川さんは今後10年間で、ハーベストパラダイスをアフリカ全土に100カ所作るというビジョンを掲げています。「Just do it. 思ったらやる」を信条に、35年間の活動を続けてきた下川さんの取り組みは、多くの人々の心を動かしてきました。

高校生の夢から始まった一人の日本人の行動が、アフリカの大地に希望の種を蒔き、それが今、沖縄で芽吹き、この島を拠点に、さらに世界との架け橋となっています。

この循環する支援の輪こそが、真の国際協力なのかもしれません。

HARVEST MOON

住所 /
南城市玉城親慶原734-2
営業時間 /
11時〜17時
定休日 /
木曜日
Webサイト /
https://www.harvestmoon.jp/coffeeandwine

沖縄CLIP編集部

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放送日:2025.07.07 ~ 2025.07.11

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