こどもと地域をデザインで照らす≪デコールデザイン≫

こどもと地域をデザインで照らす≪デコールデザイン≫

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歴史文化

初回投稿日:2026.01.06
 最終更新日:2026.01.06

最終更新日:2026.01.06

こどもと地域をデザインで照らす≪デコールデザイン≫ クリップする

なにげない会話から生まれるデザインのアイデア

豊見城市に拠点を構える「デコールデザイン」は、宮古島出身の瑞慶山成人(ずけやまなると)さん、平敷屋出身の南風(はえ)亜矢子さんご夫妻が営むデザイン事務所。コンセプトは、「未来あるこどもたちと地域を、デザインで明るく照らす」。デザインで課題解決に取り組み、人と交流する場をつくり、アートの楽しさをみんなでわかちあいたいと、子ども向け事業や地域自治体のデザインプロデュース、モノづくりワークショップなどを行っています。

デコールデザインの事務所にて作業する二人

デコールデザインの事務所にて亜矢子さんと成人さん

 

地域に残る歴史や文化に興味があるというお二人は、その入り口を求めてよく散策に出かけるそう。そして、そこで出会った地域の人たちとなにげない話をすることから、地域とつながるデザインのアイデアが生まれると言います。豊見城市で唯一の漁港、与根漁港で2022年から行っている「与根漁港壁画プロジェクト」は、まさにそのひとつ。きっかけは、糸満漁業協同組合与根支部のウミンチュ、大城和也さんとの出会いでした。

「与根に移り住んだばかりの頃、地域のことを知るために漁港を訪ねてみたんです。今は交流施設『ゆにま~る』ができたり、鮮魚直売所もあるけれど、その当時は、がらーんとした雰囲気で、少し寂しい感じがしました。何度か通っているうちに、和也さんと顔なじみになって仲良くなって、漁港の未来について話すようになりました」(成人さん)

壁画の前でお話をする人々

壁画の前でウミンチュさんたちとお話をする成人さん

 

「ウミンチュの後継者不足問題もありましたし、もっと与根漁港を知ってもらいたい、漁港をより明るい雰囲気にしたいという思いがあって、以前から護岸を壁画で彩れたらいいなと思っていたんです。でもどうしたら実現できるかわからなくて。それでデコールデザインさんに相談して、一緒にプロジェクトを立ち上げることになりました。漁港を身近に感じてもらって、入りにくい漁港が入りやすい漁港になったら良いなと」(大城和也さん)


デコールデザインの2人と壁画プロジェクトを立ち上げた大城和也さん

デコールデザインの2人と壁画プロジェクトを立ち上げた大城和也さん

 

「僕たちは、漁師さんや農家さん、一次産業の人たちを尊敬していて、応援したいという気持ちがあるので、相談して頂いたときはとても嬉しかったです。自分たちの得意としているデザインを通じて地域の人たちとつながって、それを仕事にできることが幸せだなと感じますね」(成人さん)

 

与根漁港の壁画の前で、亜矢子さんと成人さん

与根漁港の壁画の前で、亜矢子さんと成人さん

みんなの絵の彩りで生まれた漁港の変化

10年先の漁港の風景をつくる。そんな目標を掲げて始まった10年がかりの「与根漁港壁画プロジェクト」。壁画を描くのは、地元・座安小学校の6年生たち。そこには、大城さんや成人さん、亜矢子さん、小学校の先生方の「壁画制作をきっかけに、地域のこと、漁港のこと、漁業のことを学ぶ機会になってほしい」という思いがこめられています。

各年にテーマが設けられており、2022年は「与根漁港に水揚げされる魚・生物」、2023年は「与根の漁師さんの大漁旗」、2024年は「守ろう豊見城の海」。子どもたちは、生涯学習の一環で、このプロジェクトのフィールドワークを行い、そのインスピレーションから原画を描き、最後に本番の壁画を彩る活動を、毎年11月から1月にかけて行ってきました。


与根漁港の護岸に描かれた壁画の様子

与根漁港の護岸に描かれた壁画の様子

 

「最初の年、学校で子どもたちに『与根漁港を知っている人はいますか?』と尋ねたんですが、知っている子はほとんどいませんでした。でも毎年少しずつ増えていって、4年目となる今年は当初の倍くらいに。すごく嬉しかったし、続けていくことの大切さを感じました。ただ見ているだけではなく、プロジェクトに参加することで自分ゴトになっていく。壁画を通して自分の住んでいる地域のこと、漁港のこと、漁師さんの仕事が、子どもたちの心に残ってくれたらいいなと思います」(亜矢子さん)
 

書きされた原画に子どもたちが絵の具を使って色を塗っていく

下書きされた原画に子どもたちが絵の具を使って色を塗っていく

 

与根漁港で働くウミンチュさんたちも、「今年もそろそろ壁画が始まるね」と、この時期を楽しみにしているそう。「ゴミのポイ捨てがなくなって港内がきれいになって、みんな喜んでいるよ。以前、壁画を描いた子どもたちが、中学生になって自分の絵を見に来たり、壁画をきっかけに地域の人たちが遊びに来てくれるようになった」と、嬉しい変化を話してくださいました。

 

ウミンチュの大城勲さん
ウミンチュの大城勲さん

壁画を一緒に描いてコミュニケーション

豊見城市は爬龍船(はりゅうせん)発祥の地。デコールデザインの成人さん、亜矢子さんは、与根漁港で豊見城龍船協会の事務局長・赤嶺秀義さんと出会い、そのことを初めて知りました。そして、地元のこの素晴らしい文化を子どもたちに知ってもらいたいと、2025年のテーマを「豊見城市発祥! 爬龍船を描こう」に決定。フィールドワークでは、赤嶺さんによる爬龍船についての講義が行われました。
 

豊見城龍船協会の事務局長・赤嶺秀義さんと亜矢子さん

豊見城龍船協会の事務局長・赤嶺秀義さんと亜矢子さん

 

そこから子どもたちは、自由な発想で壁画に描くための原画を制作。成人さん、亜矢子さんは、その原画を20メートルの壁に収まるようレイアウトを考え、本番の壁画制作に向けて準備を整えていきます。大事なのは、子どもたちの感性やアイデア。壁画を描く主人公は子どもたちであってほしいと考えています。

みんなで絵を塗りながら壁画を仕上げていく
みんなでワイワイと絵を塗りながら壁画を仕上げていく

 

「アートは多様性と向き合うきっかけになると思うんです。たとえば、誰かが描いた絵を見て、“この絵はなんだろう?”と考えて思考力を鍛えたり、自分とは違った誰かの表現を認める力を持ってみたり。それから壁画には、会話がなくても知らない人でも一緒に創り上げることで仲良くなれるという魅力があるんですよね。絵を描きながらコミュニケーションできるという新しい方法だなと思っていて、僕たちは“ミューラル(壁画)・コミュニケーション”と名付けています」(成人さん)
 

子どもたちが自由な発想で描く個性あふれる絵

子どもたちが自由な発想で描く個性あふれる絵

 

「自分が好きなこと、好きなものを集中して描くことは、癒やされたり、何かの発散になる効果があると思うんです。ふだんは自信がなくても、そうやって夢中になって楽しめる時間があることで励みになったり。壁画プロジェクトは壁があればどこでもできる。可能性を感じています」(亜矢子さん)

2025年の「豊見城市発祥! 爬龍船を描こう」壁画制作当日の様子
2025年の「豊見城市発祥! 爬龍船を描こう」壁画制作当日の様子

人が集まる、ワクワク楽しいデザイン

成人さん、亜矢子さんは近年、なんじょう市民活動支援センター「なんサポ」と一緒に、南城市の地域活性化プロジェクトにも取り組んでいます。

たとえば、「ムラヤーであそぼうぜ!」は、地域の自治会や公民館(ムラヤー)をより多くの人に知ってもらい、活用してもらうためにスタートしたプロジェクト。ムラヤーでのイベント企画など、ムラヤーを中心に地域と人が関わる環境をつくっていくためのアイデアを出し合い、ワクワク心が躍るプランやデザインを生み出しています。

デコールデザイン制作の作品が設置されている「なんサポ」
デコールデザイン制作の作品が設置されている「なんサポ」

 

「わったーまち たんけん隊」は、地域の大人たちが探検コースを考案し、子どもたちと一緒に地域を歩き、名所・産業・人と出会う地域学習型ワークショップ。成人さん、亜矢子さんは、楽しく学べる探検ができるようにと、地域の人たちからヒアリングを重ねアイデアを凝らしたコースマップを作成しています。佐敷の手登根区(てどこんく)を皮切りに数カ所で開催され、現在は親慶原(おやけばる)での開催に向けて準備中です。

「わったーまち たんけん隊」の資料
「わったーまち たんけん隊」の資料

 

「これまで公民館に来ていなかった若い人たちがどうしたら来てもらえるのか、どうやったら新しい公民館の使い方ができるのか。その課題を考えたとき、デザインというものがとても重要だと思い、デコールデザインさんと一緒にアイデアを出し合って取り組んでいます」(「なんサポ」センター長・秋本康治さん)

「なんサポ」センター長・秋本康治さん
「なんサポ」センター長・秋本康治さん

 

「楽しいところに人が集まると思うんです。それを視覚でわかりやすく伝えられるのがデザイン。こうやってワクワクするデザインのチラシやポスターやノボリがあるおかげで、『なんサポ』ってなんだか楽しそうなことしている!と、いろんな人が言ってくれて、まさにデザインの力を感じています」(「なんサポ」コーディネーター・永山ゆりかさん)

永山ゆりかさん(右)から地元・親慶原の魅力を聞く成人さん、亜矢子さん
永山ゆりかさん(右)から地元・親慶原の魅力を聞く成人さん、亜矢子さん

人とのつながりをデザインのチカラに

「これまで関わりのなかった地域の人たちと出会って、その地域のことを知り、地域のものを作れるということが幸せ」と、語る亜矢子さん。

「実際に会って話をすると、その人たちに似合うもの、求めているものが見えてくる。会話を重ねて作りあげていくもの、そこに住む人と一緒に取り組むことで輝いていくもの、その行程にデザインの醍醐味を感じます」

地域の魅力が伝わる素敵なイラストを描いている亜矢子さん

地域の魅力が伝わる素敵なイラストを描いている亜矢子さん

 

成人さんも、「デザインの仕事がなかったら、知らなかった地域のことってたくさんあると思う。仕事を通して、地域の人たちが大切にしてきたことを教えて頂けることに感謝しています」としみじみ。

南城の高台から景色を眺める成人さん
成人さんの出身地・宮古島でも地域とつながるデザインプロジェクトが進行中

 

南城市の仲村渠(なかんだかり)は、お二人がそうした感謝の思いを抱いている地域のひとつ。成人さんと亜矢子さんは、仲村渠のロゴマークとてぬぐいのデザインを制作するために、公民館で住民の皆さんに、デザインに取り入れたい地域の景色や行事を教えてもらいながら、話し合うワークショップを行いました。

仲村渠の皆さんと意見を交換しあって完成した手ぬぐい
仲村渠の皆さんと意見を交換しあって完成した手ぬぐい

 

仲村渠は、南城市の稲作発祥の地であることや、かつて鶴が稲を運んできたという言い伝え、夜に松明の火を灯して行われる綱曳のこと、大切な湧き水に満ちた仲村渠樋川(ヒージャー)、そして大海原を望む住民の憩いの丘のこと。

地域の人に教えて頂いたお気に入りの場所
地域の人に教えて頂いたお気に入りの場所で
 

「沖縄の文化、暮らしには、たくさんいいものが残っていて、でもまだまだ僕たちが知らないものがあるんだなと感じさせられる日々です。これからも、デザインを通してそういうものと出会ったり、再発見したりしながら、地域とつながるデザインを続けていきたいと思います」(成人さん)

 

デコールデザイン

電話/098-979-6455

オフィシャルサイト/https://haisai-decor.com/

沖縄CLIP編集部

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