安全に楽しむバリアフリー観光《NPO法人バリアフリーネットワーク会議》
安全に楽しむバリアフリー観光《NPO法人バリアフリーネットワーク会議》
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歴史文化
放送日:2025.09.01 ~2025.09.05
初回投稿日:2025.09.09
最終更新日:2025.09.09
最終更新日:2025.09.09
目次
沖縄市松本の住宅街に「NPO法人バリアフリーネットワーク会議」という福祉事業所があります。
ここでは生活介護施設、就労継続支援A型・B型、児童発達支援・放課後等デイサービス、地域活動支援センターの五つのサービスを運営しています。
広大な施設では、ヤギやニワトリ、アヒルにワラビーなどさまざまな動物を飼育しています。お世話をするのは子どもたち
バリアフリーネットワーク会議代表の親川修さん
沖縄は福祉の情報過疎地だった
代表を務めるのは親川修さんです。県外で長く働いていた親川さんは、25年ほど前、人工透析を受けている知人が沖縄旅行を望んでいるが、透析を受けられる病院の情報がないという現状を目の当たりにします。
「沖縄は国内有数の観光地でありながら、福祉情報の発信・収集がされていない情報過疎地だ」と感じたのです。
そこで帰沖をきっかけに、まずは人工透析患者向けの情報収集を開始しました。
当時は「旅行透析」という言葉すら存在せず、理解のある病院を探すのは困難な時代でした。
まず県内約60の病院に郵送で資料を送り、「何曜日が空いているか」、「観光客も受け入れ可能か」といった基礎データを収集。
その後、大きな病院の透析専門医との出会いもあり、患者来院時の調査票フォーマットの共通化に成功しました。
こうして透析患者の観光旅行への道筋を切り開いたのです。
高齢者やハンディキャップの人たちが楽しめるバリアフリー情報が詰まったガイドブック
情報は発信してこそ誰かに届くバリアフリーガイドブックの発刊
活動を続ける中で親川さんは、「単なる情報収集だけでは不十分だ」と気づきます。
インターネット検索が今ほど普及していなかったとはいえ、県外には人工透析をはじめ福祉情報が溢れているのに、沖縄の情報だけは表に出てこない。
県外からアクセスしたくても情報がないため、ハンディキャップのある人たちにとって沖縄旅行は非常にハードルの高いものでした。そこで、親川さんは情報収集と発信に本格的に取り組み始めます。
最初は30ページほどの小さな冊子からスタートしたバリアフリーガイドブックは、現在180ページを超えるまでに成長しています。
「これは、バリアフリーやユニバーサルツーリズムがしっかりとしたマーケットになってきた証拠です。多くの事業者から協賛をいただけるようになったのも、障害者や高齢者の利用者が実際に増えていることの表れでしょう」
親川さんはこの25年間を振り返ります。
デザイナーとして活躍する利用者の新川辰巳さん
利用者さんたちの豊かな感性やアイデアが形になっていきます
事業者の利用者参加型の制作体制
親川さんたちが制作するバリアフリーガイドブックには大きな特徴があります。ガイドブック制作に障害のある方々が直接関わっていることです。取材から記事執筆、編集、デザインまで、すべての工程をB型事業所の利用者が手がけています。
「彼らはみんなクリエイターです。『編集をやっています』『デザイナーです』とみんなが胸を張って、やりがいのある仕事として取り組んでいます」と親川さんは話します。
それぞれがこだわりを持ち、いいものを作りたいという思いを共有するチーム
「掲載店舗の受け入れの意識も高くなってくれたらうれしい」と親川さん
那覇空港を動かした親川さんの思い
那覇空港1Fの到着口に設置された「しょうがい者・こうれい者・観光案内所」
近年、障害者差別解消法などの法整備により、「障害を理由とした差別禁止」という基盤が確立されました。
観光地にとって車椅子利用者を断ることは、今や致命的な問題となります。この法的整備により、バリアフリー観光を取り巻く環境は大きく改善されています。
那覇空港での車椅子貸出サービスは、沖縄県が日本初で導入した画期的な取り組みです。利用者は空港で車椅子を借りて観光を楽しみ、帰りに空港で返却できる。ストレスフリーな観光が実現しました。
現在、親川さんたちは那覇空港以外にも羽田空港、福岡空港のバリアフリー窓口を運営。2026年3月には新千歳空港でも開始予定です。沖縄県が日本のバリアフリー観光のパイオニアとして、その成果を全国に広げています。
興味深いことに、相談窓口への問い合わせの約4割は海外からだと親川さんは言います。アジア諸国の高齢化が進む中、親孝行として家族を連れて旅行したいというニーズが高まっているのです。
福岡空港では外国人利用者が49%に達するなど、バリアフリー観光の国際化は急速に進んでいます。
バリアフリーネットワーク会議には年間約17,000件の問い合わせがあり、車椅子の貸し出しからホテルのバリアフリー対応、移動時間の確認まで、相談内容は多岐にわたります。
乳幼児から高齢者まで、現地で車椅子やベビーカーをレンタルできるのはとても心強い
国際線に設置された「しょうがい者・こうれい者・観光案内所」
「逃げるバリアフリー」への取り組み
グランメールリゾートでの逃げるバリアフリー訓練のようす
親川さんは入口のバリアフリー化だけでなく、災害時の避難対策にも力を注いでいます。「逃げるバリアフリー」というコンセプトで、障害者や高齢者が災害時に安全に避難できる体制づくりを進めているのです。
これまでホテルや陸上競技場などで避難訓練を実施。実際の避難時間を計測するなど、実証実験を重ねています。
「観光地として大切なのは、来たお客さんを安全に帰すまでが仕事」。
この信念のもと、親川さんは入口から出口まで、そして緊急時の対応まで考えた包括的なバリアフリー観光を実現してきました。
この取り組みは単なる社会貢献ではありません。高齢化社会とインバウンド需要の拡大を見据えた、持続可能な観光業の未来を示すモデルケースなのです。
障害の有無や年齢に関わらず、誰もが安心して楽しめる観光地づくり。それは、これからの時代の必須条件です。常に先を見つめ続ける親川さんの取り組みに、終わりはありません。
NPO法人バリアフリーネットワーク会議
- 住所 /
- 沖縄県沖縄市松本2-30-1
- TEL /
- 098 - 929 - 1140
- FAX /
- 098 - 929 - 1143
- E-Mail /
- jimukyoku@barifuri-okinawa.org
- Webサイト /
- https://barifuri-okinawa.org/
沖縄CLIP編集部
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