地域と人をむすぶ共同売店《田嘉里共同売店》
地域と人をむすぶ共同売店《田嘉里共同売店》
Reading Material
歴史文化
放送日:2025.05.12 ~2025.05.16
初回投稿日:2025.05.22
最終更新日:2025.05.22
最終更新日:2025.05.22
地域の暮らしを支える共同売店とは
沖縄本島北部、大宜味村の北端に位置する田嘉里(たかざと)集落に、「田嘉里共同売店」があります。
共同売店とは、かつては住民が出資し合って共同で設立・運営した売店のこと。スーパーや商店がない地域では、人々の暮らしを支える大切な存在でした。
その売上は地域の福祉やインフラ整備に還元されるなど、単なる商業施設を超えた役割を果たしてきたといいます。
田嘉里共同売店は、大正10年ごろに創業されたとされ、50年ほど前までは木造の建物で、集落の住民たちが中心となって経営していました。
運営は組合形式で行われ、住民が出資。物資の販売に加えて、金融的な機能も果たし、現代の農協に近い存在として、お金の貸し借りや掛け売りなども行われていたとのことです。
電話が一般家庭に普及していなかった時代には、共同売店が電話の拠点となっていて、「電話だよ」と呼ばれると、住民はみな売店に駆けつけました。
子どもたちにとっては、お小遣いでお菓子を買いに行く特別な場所であり、石油を買いに行くお使いの場でもありました。
電気の供給がなかった当時は冷蔵庫が使えないため、夏場はドライアイスを用いてアイスクリームなどを販売していました。

山と海に囲まれた田嘉里地域では、昔は山を切り開いて畑を作っていました
「やってみたい」という思いで共同売店を引き継ぐ
田嘉里共同売店は、2023年の4月から一時閉店していましたが、2024年、地元出身の金城幸夫さんが経営を引き継ぎ、個人経営で再開することとなりました。
金城さんに共同売店を再開した理由を聞いてみました。
「山間部の一部は、やんばる国立公園にもなっており、固有種の生物が息づいています。
やんばるの生態系を守ることが、田嘉里の活性化につながると思い、10年ほど前から環境省と一緒に林道のパトロールを行っていました。
メンバーたちと話している中で、ビジターセンターみたいな拠点があればいいなと。さらに、集落の特産であるタケノコ祭りで、地域を盛り上げたいという思いも重なり、共同売店ならそういう拠点にできると思ったんですね」
常に賑わっている場所ではありませんが、朝と夜に明かりが灯る共同売店は地域の人々にとっての拠り所でもあります
やんばる観光の拠点として
店内には、地域の野菜や調味料、日用雑貨、おやつ、ドリンクなどが並びます。
営業は朝7時から10時、午後は17時から19時まで。
土曜・日曜日はお休みです。
営業時間と定休日は、利用客の動向に合わせて、現在のように落ち着きました。
金城さんが引き継いでから約1年。人口200人ほどの集落で、売上だけで売店を維持していくのは簡単なことではありません。
それでも入り口に「営業中」ののぼりが立つと、買い物で、金城さんとお話に、祭りの相談でなど、さまざまな人が立ち寄ります。
店内には、地域の方が制作した民具やオブジェが並び、やんばるに生息する生物の映像や、世界自然遺産を学べるビジターセンター的なスペースも設置されており、「やってみたかった」という金城さんらしい共同売店がカタチになってきているようです。
左側には、朽ちた琉球松の一番芯の部分を活用したオブジェを展示。
森を知り尽くした地元の方だからこそのひらめきが作品になりました。右側はやんばるの資料を閲覧できるスペース
金城さんたちが制作したガイドブック。田嘉里の自然や先祖崇拝の文化、産業など、地域に語り継ぎたい記録がまとめられています
事前予約をすれば金城さんが集落を案内してくれます(有料)
田嘉里集落では「ホテイチク」という竹をグラと呼び、新芽の部分を食してきました。毎年グラの祭りが開催され、田嘉里の食文化が継承されています(2025年は不作のため中止)
森を守ることは地域を豊かにすること
林道パトロールではGPSを用いて、生物や植物の観察記録を取ります
金城さんは、世界自然遺産となった「やんばる三村(大宜味村、国頭村、東村)」の有志たちとともに、森を巡る活動を行っています。
林道のパトロールは、密猟の抑止力やロードキル(野生動物の交通事故)の発見、生態系観察などが主な目的ですが、活動初期は、国立公園や世界自然遺産への理解を深め、地域の豊かさにつなげるための啓発活動でもありました。
固有種の生物や植物が息づくやんばるの森

奄美大島、徳之島、沖縄本島北部に生息する固有種で国内最大のケナガネズミが、松ぼっくりを食べた痕跡。金城さんたちはこの食べ残しを「エビフライ」と呼び、その場所での生息確認に役立てています

清流のそばに生息するシリケンイモリ

森のシャンデリアと呼ばれる植物イルカンダ。深い紫色のブドウの房のような花をつけます
「やんばるの森を守ることは、地域を豊かにすることにつながります」と金城さん
金城さんは、田嘉里の自然を守りながら、地域の暮らしを記録する作業を続けています。その根底には、先人の思いや暮らしを忘れずに未来へ伝えていきたいという強い信念があります。
「今、伝統や文化を正しく残していかないと、継承する理由がわからなくなってしまいます」という金城さん。
また、もともと農業中心の田嘉里では、工芸品の販売は盛んではありませんが、「器用な人はたくさんいて、自宅では道具を手作りしています。そういった人たちの工芸品をもっと人の目に触れる場に出していきたいという思いもありますね」
田嘉里共同売店には、沖縄における共同売店の新しい可能性がありました。
田嘉里共同売店
- 住所 /
- 沖縄県国頭郡大宜味村田嘉里575
- TEL /
- 0980-44-3106
- 定休日 /
- 土曜・日曜日
- 営業時間 /
- 7時〜10時、17時〜19時
沖縄CLIP編集部
TVアーカイブ配信中
放送日:2025.05.12 ~ 2025.05.16
-
放送日:2025.05.12
-
放送日:2025.05.13
-
放送日:2025.05.14
-
放送日:2025.05.15
-
放送日:2025.05.16
同じカテゴリーの記事
よみもの検索