土と繋がる色 琉球藍《藍染工房 亞人》

土と繋がる色 琉球藍《藍染工房 亞人》

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歴史文化

放送日:2025.06.09 ~2025.06.13

初回投稿日:2025.06.19
 最終更新日:2025.06.19

最終更新日:2025.06.19

土と繋がる色   琉球藍《藍染工房 亞人》 クリップする

今帰仁村諸志の優しい森の中腹に「琉球藍 藍染工房 亞人」(以下亞人)の工房兼ギャラリーがあります。

琉球藍の栽培から染料づくり、染色までを一貫して行う亞人を運営しているのは、琉球藍染め作家の早瀬泉さんと夫の道生さん。

この地で生まれ育った泉さんは県外で暮らしていましたが、自分が育ったような自然豊かな場所で子育てをしたいと帰沖しました。

有機農法を生業としていたご両親の影響もあり、もともと農に興味があった泉さんが、有機的な営みをデザインでアウトプットしたいと考えた時に、たどり着いたのが琉球藍染めでした。

 

今帰仁村の畑で琉球藍を育てる
ご両親から受け継いだ今帰仁村の畑で琉球藍を育てています
 

琉球藍は紅型や芭蕉布、絣など、沖縄の染織物に欠かせない染料です

琉球藍は紅型や芭蕉布、絣など、沖縄の染織物に欠かせない染料です

未経験から藍の栽培を学ぶ

ご両親の姿を見て育った泉さんですが、農業は未経験です。まずはご両親の知り合いの琉球藍農家に通って、栽培の知識を一つひとつ身につけていきました。

琉球藍は挿し木で増やします。最初に10株を譲ってもらい自身の畑で少しずつ増やしていきました。

「種があれば買えますよね。でも琉球藍はそうはいきません。だからこそ、育てる責任は大きいなって思うんです。また、気候や土壌で栽培方法も変わります。教わった土地のやり方が自分の畑でもそのまま通用するわけじゃないので、最初は失敗の連続でした」と泉さん。

藍染めには「泥藍」という発酵させた藍が必要になりますが、最初はpH値の調整が難しく、雑菌を繁殖させてしまい、80キロの染料を腐らせてしまったこともあります。約30万円相当の損失でした。

「でも運良く染料はたくさん取れたので、失敗しても、次やるぞ!という感じで続けられました。飽き性な性格もあって、始めた時はこんなに長く続くとは思っていませんでしたが、気がつけばあっという間に10年が経っていました。

藍の栽培から商品づくりまで、一連の工程をすべて手がけるのは大変でしたが、自分で育てることで安定して染料を確保できるというメリットがありました。

染料を外部から購入していると、年によっては『今年はない』という事態が起こり、それが生活に直結します。そのため選んだ染料の自給自足は正しかったと思います」と泉さんは続けます。

当初は染料が作れればいいかなと思った泉さんですが、次第にものづくりの楽しさに目覚めます。


琉球藍を定植中
琉球藍を定植中。畑は何ヶ所にもまたがっているので、日々の管理だけでも重労働です

緑に囲まれた工房兼ギャラリー
緑に囲まれた工房兼ギャラリー

漉した泥藍を容器に移す作業
漉した泥藍を容器に移している道生さん

完成した泥藍
完成した泥藍

完成した泥藍
衣類を染める泉さん

染料を亞人らしい表現で形に

安定して染料を確保できるようになってからは、藍染め作品にも力を入れ始めます。藍染めで使用する生地についても、泉さんにはこだわりがありました。

「こんなものを作りたいからこんな生地がほしいというよりは、出会った生地の背景やストーリーに心を動かされた時に、こういうのが藍であったらいいなと思って形にしていきます」

また、繊維以外の染色にも挑戦しています。

三線工房からの依頼で、蛇皮を藍染めしたこともありました。

沖縄各地に生息するカジノキの樹皮を叩いて繊維にし、それを染色するオブジェも好評です。植物の命を最後まで全うさせたい、そんな泉さんの気持ちが込められています。

 

琉球藍染め作家の早瀬泉さん
夢は、楽園みたいな気持ちのいい場所を作りたい。自分で作った野菜と果実と藍畑もあって、動物たちもいて、いろいろな人が心地良いと感じる空間、そこで家族との時間も大切にしていきたいです」

染め依頼を通して新しい価値を生む

泉さんは、お客さまが大切にしている衣類や思い出の品を預かって、藍で染め、新たな命を吹き込む「染め依頼」のサービスも行っています。

「印象的だったのは、亡くなった親友の帽子を染めてほしいという依頼や、離婚したから結婚式で着たワンピースを藍で上書きしたいというエピソードなど。染めを通して、誰かの思い出に新たな価値が生まれるのなら、それはとてもやりがいがあります」と泉さん。

春から夏にかけて、湿度や温度が一定する季節は、藍染め体験も行っています。衣類を持ち込んでもいいし、工房でも手ぬぐいと風呂敷を用意しています。

通常の染め体験では染めてすぐに持ち帰るパターンが多いのですが、亞人では手間暇はかかりますが、半年間工房で寝かせてから納品することを提案しています。

藍染めは時間をかけるほど品質が上がります。レゴに例えると、ブロックの凸が生地で、凹が色素。時間をかけて合体させたほうが定着するそうです。

今後はできるだけ色素を売っていきたいと話す泉さん。ものを作って売る、買うのも大切な社会活動ですが、10着買うなら1着は染め依頼に出すというSDGsがあってもいいのではないか? 泉さんは藍と社会をつなぐコネクション的な役割になっていきたいと話します。


ギャラリー奥のアトリエスペース
ギャラリーの奥がアトリエスペースになっています

個性的な小物やアクセサリー、雑貨などが並ぶギャラリー

個性的な小物やアクセサリー、雑貨などが並ぶギャラリー


カジノキを叩いて藍染めしたオブジェ

カジノキを叩いて藍染めしたオブジェ


ひと針ひと針丁寧に仕上げていきます
ひと針ひと針丁寧に仕上げていきます

木々がある道を歩く人々
お散歩は家族にとって幸せな時間

琉球藍は人生の哲学

「私は、最初から最後まで出来る限り全てに納得していたい。畑も染料も生地も、形にするところまで。そこに気持ちものって、すべてに責任持ちたい。それはもう、好きとか嫌いじゃなくて、"生き方"なんだと思いますね」と泉さん。

泉さんの琉球藍は、鮮やかな発色だけでなく、彼女の暮らしと哲学そのものを映し出しています。

 

※藍染体験は5月~9月に常時開催。3日前までに要予約

琉球藍 藍染工房 亞人

住所 /
沖縄県国頭郡今帰仁村諸志1944-3
TEL /
090-5364-7803
営業時間 /
11時〜16時
定休日 /
日〜水曜日
Webサイト /
https://ajin.blue/

沖縄CLIP編集部

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