海が薫るグラスを作る波乗り工芸家【glass 32】

海が薫るグラスを作る波乗り工芸家【glass 32】

Reading Material

歴史文化

初回投稿日:2017.01.16
 最終更新日:2024.04.12

最終更新日:2024.04.12

海が薫るグラスを作る波乗り工芸家【glass 32】 クリップする

しまんちゅ旅はじめました

「サーフィンとガラス工芸は人間の思う通りにはならないところが似ています。海と同じように原料の状態は毎回変わりますから。でも、だからこそ、イメージした通りのものができた時は嬉しいです」。具志堅充さんがガラス工芸の世界に入ったのは今から18年ほど前のこと。
 
ガラス制作中の具志堅充さん
 
「サーフィンを通じて知り合ったガラス工芸家の豊島ルリ子さんにサーフボードの修理を頼まれたんです。そのお返しに豊島さんの工房で働かせてもらったのがきっかけですね。工房は月・火休みでしかも出勤は12時から。夢中になっていた波乗りも十分楽しめそうだったし、ものづくりには興味もありましたから」。その時はガラスに対して特別な魅力を感じていたわけではなかったと、充さんは飄々として答えるが、ガラスの魅力に引き込まれるのにそれほど時間はかからなかったそうだ。
 
看板の「青の洞窟」は黒に近い深い青が印象的
 
器のバリエーションは数え切れない。看板の「青の洞窟」は黒に近い深い青が印象的。透明に近いブルーとか、はっきりした青はよく見かけるけれど、この色は充さんのオリジナル。「顔料が多いと泡立ちが激しくなって窯の中の壺から溶岩みたいに溢れ出してくるんです」。深い色を出すために、顔料の割合を何度も変えて試行錯誤を繰り返したという。
 
作品の「ロングビーチ」
 
作品の「リング」
 
続いてファンが多いのは「ロングビーチ」や「リング」。「ロングビーチ」は波打ち際に寄せてくるスパークリングワインの気泡のようなやさしい波をイメージさせるやわらかい質感のグラス。「リング」は縁の部分にキラキラきらめく輪っか状のガラスをあしらったものだ。
 
具志堅充さんのガラス工芸作品
 
具志堅充さんのガラス工芸作品
 
日々の生活に馴染むものからウエディングなどギフト向けのものまで、幅広く手がける充さんの毎日は、火入れから始まる。朝、工房に到着すると、窯に火入れをする。温度が上がるのを待つ間、前日制作した器を冷却窯から取り出して検品を行う。温度が、その日作業できる1300度前後まであがったら、その日の制作がスタート。一つずつ手作業で、ガラスの器が作られていく。
 
一つずつ手作業で、ガラスの器が作られていく
 
棒に絡めて窯から取り出した真っ赤なガラスの塊を、型に入れて素早く形を整える。
 
ガラス制作の型
 
ガラス制作の道具
 
型は器のバリエーションに応じて、充さんが自ら手作りしている。テントのペグを溶接したりと小さな工夫の積み重ねがグラスのなめらかな曲線や、美しいシェイプを支えている。毎日毎日向き合っている窯も充さんの手作りだ。
 
ガラス制作中の具志堅充さん
 
夕方になると翌日のために、原料を窯の中に継ぎ足していく。「原料のガラスは使われなくなった泡盛の廃瓶です。瓶を割って細かくしてから、熱く燃えさかる窯の中に投入します。再生ガラスは冷めやすいので、窯から取り出したら熱が下がらないうちに形を整えなくちゃいけない。ちっとしたミスで歪んでしまう。生きものみたいなものでこちらがきちんと接してあげないと拗ねるんですよ」。一般的なガラス工芸の世界では、硅砂(けいさ)に炭酸ナトリウムや炭酸カルシウムなどをブレンドしたバッジと呼ばれる原料を購入して使うことがほとんどだ。バッジは便利ではあるけれど、充さんは、モノがあふれる現代だからこそ、伝統的な琉球ガラスと同じように廃瓶を使い続けている。
 
ガラス制作中の具志堅充さん
 
「無言実行の人」。パートナーの佳子さんは充さんをそう評する。「何も言わずにいつもコツコツやっているんですよね。『こうしたら』、『ああしたら』と、ことあるごとに工夫しています。時々、ガラス工芸に携わる若手の職人が見学に来るんですけど、『窯づくりの方法とか、グラスづくりの技法をどうやって学んだんですか』と聞かれることが多いんです。そんな時、充さんは嫌な顔をせず、“後輩”に自分が持っている知識や技術を惜しむことなく伝えるんですよね」。
 
ガラス制作中の具志堅充さん
 
今の充さんを支えているのはいろんな工房で技術を教えてくれた先輩たちのおかげだからと、言葉にするわけでもなく、サーファーがいい波をシェアしあうように、充さんは琉球ガラスの技術を、当たり前のこととして若い世代につないでいるのかもしれない。
 
佳子さんと充さん
 
「うちの人気商品の一つに片口があるんですけど、ガラス製だと水を注いだ時に口から水が垂れることが少なくないんです。金属や木素材と違って人の手による造形に限界があるからなんです。でも、『この片口は後引きしないね』って、ある時、工芸の専門家が指摘してくれたんですよ。それに対して充さんは「たまたま作れているだけですよ」と謙遜するだけなんです」。どちらかといえば寡黙な、職人気質の充さんに代わって嬉しそうに話を続ける佳子さん。波乗りと琉球ガラス。人の思い通りにならない世界を相手に、黙々と自分の世界を追求している充さんを眺める視線が眩しかった。

琉球ガラス工房glass32

住所 /
沖縄県名護市宮里7-19-27
電話 /
0980-52-7899
サイト /
http://glass32.com
Instagram /
https://www.instagram.com/glass32.okinawa/

沖縄CLIP編集部

同じカテゴリーの記事

しまんちゅ旅はじめました